インタビューバスケチーム型経営論 時間と確率で組織を動かす

広島ドラゴンフライズ 社長

浦 伸嘉
広島プロスポーツ特集|広島経済レポート

2024年にBリーグを初制覇し、25年にはアジアチャンピオンとなった広島ドラゴンフライズ。25年6月期の売上高は17億5000万円と、浦伸嘉社長の就任後に14・5倍へ成長した。下部リーグから国内トップクラスへ押し上げた浦社長が唱える「バスケットボールチーム運営型企業経営論」について聞いた。

―提唱した経緯を教えてください。

 選手として体で覚えた感覚が、経営の言語と重なった瞬間がありました。0コンマ何秒の判断ミスが勝敗を分ける競技で、最高の確率を引き出しながら組織を動かす。引退後に起業してから、企業経営とバスケに通じるものを感じました。スポーツは結果が全ての世界です。プロセスへの言及はアマチュアや育成段階まで。この思考を企業に持ち込めば組織は強くなるという確信を体系化したのが同経営論です。

―この経営論の核心は。

 時間と確率の二つです。バスケは1000分の1秒まで数値化される競技で、ルール上は残り0・3秒あればシュートを打てることになっています。例えば残り5秒あれば、1秒で打って次にどうすると考えるわけです。企業経営も時間感覚が結果を大きく左右します。一定以上の経営層はお金より時間を大切にしており、1時間で1000万円を稼ぐ経営者は、その時間を短縮できるなら500万円を投じる。時間の価値を数値で語れる組織は、それだけで意思決定の質が上がります。

 バスケのフィールドゴール成功率なども同様に数値化します。約5割ではなく47・2%などと言える精度が戦術選択の根拠になる。0・1%でも高い人に決定打を任せるのです。経営でも回転、成約、利益、離職率などを千分率(パーミル)まで追う数値感覚が大切。こうした小さな数字の積み重ねが大きな経営の差になっていきます。

―「時間」への取り組みは。

 他人の時間を奪わないことが興行における最高のホスピタリティーだと考えています。ブースター(観客)駐車場の待機時間からチケット回収にかかる秒数まで全てを削減の対象として設計。入場のストレスが1人1秒減るだけで、試合への集中度や満足度が上がり、リピーターを生む土台となります。社内でも同じ発想を徹底します。相手の時間を突然奪う上に、時間がある際にしか対応できない電話を減らし、返答期限や選択肢を明示したチャットやメールで意思決定のサイクルを速める。連絡遅延を許容する文化は、経営判断の遅れに直結します。

―「確率」はどう生かしていますか。

 社会人をプロと定義するなら、評価は結果のみです。10点取ろうと思って3点では試合に出られないように、アポイント100件が目標で80件なら未達。逆に、アプローチに創意工夫の余地を残すため、プロセスへの口出しはできるだけ控えます。米国NBAのスター、ステフィン・カリーは教科書通りのフォームでシュートを打つとは限らない。しかしスリーポイントを高確率で沈めるから評価される。毎日練習していても結果を残さなければ評価しない。それが言い訳のない組織をつくります。

 また、集客データを分析すると、思い込みと現実の乖離が見えてきます。学生を無料招待すると喜んでくれて満足するのですが、10代の競技経験者のリピート率はほぼゼロに近い。一方、普段声が聞こえてこない30〜60代女性は、実はリピート率が高いというデータがある。感覚ではなく情報で認識を修正する。この積み重ねが判断の質を底上げします。

―組織づくりの要諦は。

 集団と組織は違います。強いチームも企業も組織として動く。①明確な共通目標、②忠誠心、③情報共有、④結果を残すリーダー、⑤良いルールとマニュアル、という五つの要素が機能して初めて組織になります。中でも情報共有は生命線です。ビジネスは良い情報は速く伝わるが、悪い情報は遅れがちです。しかし正しい情報が集まらなければリーダーは正しい判断ができない。ネガティブな情報も中立的に素早く共有する文化をつくらなければなりません。あいさつの徹底を基礎行動として制度化しているのも、コミュニケーションエラーは必ず小さな習慣の乱れから始まるという原則からです。

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―ルールとマニュアルを使い分けると聞きました。

 ルールは守りで、マニュアルは攻めと捉えています。ルールはバックオフィスに厳格に適用。人事、財務経理、総務はいわば組織のディフェンスです。当社では2000円以上の支出は事前稟議を義務付け、細則と罰則を明文化して運用しています。工数が増えることで社員が自然とコスト意識を持つ効果もある。守りを固めることが、攻めに集中できる土台を作ります。

 マニュアルは攻めの再現性を高めるもの。フォーメーションのようなもので、誰が入ってもお互いが生きる仕組みをつくる。チケット回収の手順、場内の動線、設営の配置まで写真付きで標準化し、担当者が代わっても同じ品質のサービスを提供できるようにしています。バックオフィスに自由を与えると統制が乱れ、営業にルールの縛りを与えると創意工夫がなくなる。守りと攻めを明確に使い分けることが組織設計の核心です。

―リーダーに求める資質は。

 統率力が最重要です。社長の力量以上の組織にはならないという原則があります。バスケでも同様。30人が指示から0・5秒で同じ目標に向かって動ける組織なら、仮に目標が間違いでも即座に修正できます。また、エースほど規律を厳しく適用します。例外を許した瞬間に文化は崩れる。戦略・戦術は外部から補完できますが、統率力だけは内部で育てるしかありません。目標設定ではオーバーポテンシャルを意識します。本人の力の120%を要求。営業1年目にはアポイント100件、10年のベテランには成約10件と能力に応じて同等の負荷がかかるよう調整し、異なる評価軸で競争させる。個人の能力が平均的でも、誰と誰を競わせ、組ませるか次第でチームの成果は大きく変わる。編成の妙こそがリーダーの腕の見せどころです。

―参考にするチームや企業は。

 最も参考にしているのはNBAのマイアミ・ヒートです。パット・ライリー社長が1995年から、エリック・スポールストラHC(監督)が現場トップとして2008年から同じ体制を継続しています。哲学を共有するトップが組織に居続けることで戦術、文化、価値観が蓄積され、選手が入れ替わっても強さが再現される。組織の強さは人ではなく仕組みに宿るという経営の本質を体現しています。NBAはチケット、放映権、スポンサー、グッズ、アリーナ収益まで全て数値で可視化し、ビジネスとして精緻に設計されています。日本のプロスポーツはまだチケットに頼る興行の域を出ていないクラブも多い。しかし満員のアリーナという状態が全ての要素を押し上げるという構造は、スポーツビジネスの普遍的な原理です。この発想で事業を設計することが、持続的な成長につながると考えています。

―チームの数値目標は。

 売上高50億円を大きな目標とし、26〜27シーズンまでの20億円到達を中期目標に設定しました。スポンサーは現在の300〜350社、平均単価160〜170万円を500社200万円へ引き上げ、スポンサー売り上げ10億円化を計画しています。ファンクラブは現在の7000人から1万人へ増強を狙う。いずれも来場者のセグメントデータや購買行動と連動させた数値根拠があります。これらは全て50億円からバックキャストで導き出しています。今期何をすべきかは逆算で決まり、目先の数字に引っ張られない。この思考が組織をぶれさせない経営の基本です。

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―グリーンアリーナ移転の狙いは。

 現在のサンプラザは最大4500席で平均来場者は約4200人、ほぼ満員の状態が続いています。まずここで全試合完売を達成することが最初の目標です。その上で最大6500席のグリーンアリーナへ移行したい。市中心部からのアクセスが改善し、平日仕事帰りの新規需要を取り込めると見ています。席数を増やすことが目的ではなく、需要を超える供給を生み出すことで次の成長ステージに入れる設計です。スポーツビジネスで最大の価値は満員です。チケットが簡単に手に入らない状態をつくることが、あらゆるKPIを動かす最上位の指標です。グリーンアリーナの常時フルハウスを目指して頑張ります。

プロフィール広島ドラゴンフライズ 社長 浦 伸嘉 1980年10月1日生まれ、広島市出身。美鈴が丘高校、大阪商業大学を卒業し、新潟アルビレックスなどでプロバスケットボール選手としてプレー。2007年に現役引退し、16年から現職。20年にNOVAホールディングスへのM&Aも経験。

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