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【特集】組織強化"我”を尊重する指導 ~広島を率いる新監督対談~
広島ドラゴンフライズ 監督 / 朝山 正悟
ヴィクトワール広島 監督 / 西村 大輝

今季から広島のプロスポーツチームを率いる2人の新監督。トップ選手から管理者への転向でどのような変化があったのか、チーム内での取り組み、新アリーナや競輪場への期待などを聞いた。
―監督になり変わったことは。朝山 生活スタイルです。試合が本番なので、選手時代はそれに最高の状態で臨めるよう体のケアや調整を行ってきました。監督の今は試合直後の分析、次の試合のための準備や対策などに時間を費やしています。
西村 姿勢です。選手時代は自分が孤高のエースになるというスタンスでチームを引っ張れましたが、監督は選手全員に理解を求め、同じ方向を向いてもらえなければ団結させられません。選手を論破するのではなく、一人一人の悩み、意見をしっかりと聞いて自分のことのように向き合うように意識しています。
朝山 根底にある「バスケットボールが好きで、試合に絶対に勝ちたい」という情熱は何一つ変わっていません。長いシーズンでは調子の波があります。今シーズン前半の連敗のように、選手間にネガティブな雰囲気が生まれそうな時ほど自分が屈しない姿でチームの在り方を体現して、選手ら自身で乗り越えられるように引っ張る意識を持っています。
―監督として注意していることは。朝山 声をかけるタイミングです。コミュニケーションは大切ですが、アドバイスのつもりが説教になってしまうことがあります。それぞれの心に一番響く時期に伝えられるよう、西村さんと同様に選手の個性を見つめています。また見返りを求めないことも重視。助言を理解して行動に移すまでの期間も選手によるので、指導陣の理想を押しつけないように我慢することも大切です。
西村 選手同士がコミュニケーションを円滑に取れるように気を付けています。時には外国人選手の通訳も務めるなど選手の輪に入ることも。でも仲良くなりすぎないよう自分の中で線引きをして、レース時には必要なことをはっきりと伝えられる距離感を保つよう心掛けています。
―西村監督は就任からシーズン開始まで2カ月弱でした。短期間でチームを仕上げるための工夫は。
ヴィクトワール広島 西村 大輝監督
西村 実は昨年7月には監督就任のオファーを承諾していました。またキャプテンの柴田雅之が同い年で現役時代から交流があったため、就任に当たって合流前から連絡を密に取り、大いに支えてもらいました。
朝山 同い年の監督とキャプテン、難しくないですか。
西村 前のチームでは8歳以上年上の選手も率いたので、今は難しいと感じていません。
朝山 怒ることもありますか。
西村 管理職は怒ったら負けだという信念があるので、指導はしても怒らないようにしています。情熱は絶対に捨ててはならないのですが、それを選手への怒りに変えるのは自身をコントロールできていない証拠。一緒に強くなるという本来の目的を見失わず、感情的に選手を言い負かさないことが大切だと思います。朝山さんはどうですか。
朝山 怒ることはないですが、重要なチーム方針から外れた行動や消極的なミスにはしっかりと指導します。メリハリが重要ですよね。

広島ドラゴンフライズ 朝山 正悟監督
朝山 選手の平均年齢がリーグでも2番目に若い。世代差は当然ありますが、長く濃い選手キャリアを続けられるよう誰にでも共通する大切なことを教えています。特に自分で考えて、決断して、行動すること。そのために選手同士で話し合う時間をしっかり取っています。また、もっと愛されて応援してもらえるチームになるために、選手と地域をつなぐ活動にも注力。チームが苦しい時代に支えていただいた地域の皆さんやスポンサーの方々の存在を現役選手にしっかりと伝えています。
西村 私は30歳なので現役世代との差で悩むことは少ないですが、自身が全国で初めて高卒でプロ入りした当時は、年上の選手ばかりで環境に慣れないこともありました。自分の経験と若い選手の様子を重ねて困り事を想像しながら接しています。
―若手が入る良さは。朝山 やっぱり勢いですね。失敗を恐れなくてよい年代なので、どんどん前に出てほしい。チームの中で役割を遂行するのは当然ですが、全てをうまくやろうとするあまり、チャレンジの姿勢を失ってはいけません。若者が挑戦して生み出す未知の現象がチームに与える影響は計り知れないですからね。
西村 切磋琢磨(せっさたくま)だと思います。年を重ねた選手は「来年もチームに残るためにどうするか」など打算的な考え方をしてしまうこともあるのですが、若手が「ヨーロッパの一流チームで活躍したい」など大きい夢を持って、がむしゃらに頑張ってくれると自然とチーム内に良い競争心が生まれます。また、チームの歴史を紡ぐためにも次世代の主力になっていく存在は重要です。強豪はベテラン、中堅、若手のバランスが良く、長年にわたって勝てる体制が作られています。
自分の芯をぶらさない(西村) ―お二人とも現役中に大ケガで休養した経験がありますが、壁にぶつかった選手への接し方は。朝山 当然ながら治療については全面的に支援します。精神面は、最終的には選手自身が「ケガをしたから今の自分がある」と割り切れるかどうかに懸かっているので、治療期間でしっかり自分と向き合うように伝えています。ケガが大きければ大きいほど落ち込むので、都度コミュニケーションは取るのですが、代わってあげられない。自力で乗り越えられるかどうかでその後のキャリアも変わるので、選手自身に任せる方が良いと考えています。日本代表にも選ばれたエースガードの寺嶋良が昨年3月から大ケガで長期離脱を経験した際にも同様に接し、今年1月に無事復帰してくれました。
西村 自分の身に起きたこととして捉えるようにしています。プロ選手は療養期間中、1週間が数カ月に感じるほど不安になります。私は過去に椎間板ヘルニアの手術を3度受けて選手復帰したのですが、持病の手術後に回復できず引退しました。輝かしい経歴の監督は全国にたくさんいますが、これらの手術の経験こそが私の監督としての強みなので、選手の話を聞いて共感し、しっかりとケアするよう心掛けています。

朝山 新しいチームに順応しながらも「自分」をなくさないことが大切です。よく選手にも言いますが、「良い人」になるのは簡単。指示通り動けば一見役割を担っているようですが、個人の良さは消えていきます。でも厳しいプロでは自分を出す姿勢がないと日本一は目指せないです。団体競技ですが、個が確立された上でチームを成り立たせることが重要なので、よく選手にも「良い人になりすぎてないか」と問いかけます。選手が自分で積極的に得点を狙った結果が良いチームプレーを生み出した場合は、なぜ成功したのか、なぜ同様のケースで今まで成功に至らなかったのかを皆で考えて糧にします。「我」が強くないと試合を決めるシュートは打てないですからね。
西村 自転車競技はエースとアシストが明確に分かれており、監督の指示に従って役割を全うします。まずはチームに順応して、自身の仕事を通じてしっかりと信頼を得ることです。その姿勢を続けているとエースを任される場面が必ず訪れるので、それをミスなく遂行する。その繰り返し。その間、自分の目標や「芯」をぶらさないことが大切です。
―どのように自分の芯を探しましたか。朝山 うーん、最初から「バスケが好きだから、これで食べていく」「日本一のチーム、プレーヤーになりたい」といった漠然とした芯は持っていたかもれないですね。でも苦しい時期に多くの方と触れ合い、支えられながらプロキャリアを続けるうちに「なぜバスケが好きなのか」「バスケでご飯を食べるとは」「どれだけの人が関わっているか」「どんな思いの人がいて、それを背負うとは何か」といった問いを重ね、初めの思いが濃くなっていったイメージです。

西村 アスリートとして「勝つ」のは当然の軸ですが、私はジュニアの頃から「ヨーロッパのプロになる」と公言しており、突き詰めた結果、イタリアで実現できました。しかし、その後に所属した「日本初の地域密着型チーム」宇都宮ブリッツェンで自身の価値観が大きく変わりました。地域活動、ファン対応、メディア露出などをたくさん行う中で、競技への情熱に加えて「地域に支えられている自覚」が上乗せされました。競技だけを突き詰める競技会とプロスポーツの違いは、地域やスポンサーなど大勢の方に応援してもらっているということ。その立場を自認して大切にすることが、自転車界の発展にもつながると考えます。
街を盛り上げる新本拠地に(朝山) ―昨年12月に「夢の新アリーナ応援プロジェクト」が始動。26年3月に新広島競輪場の完成が予定されていますが、各施設への期待は。朝山 もちろん大いに期待しています。将来的には全国各地に1万人規模のアリーナができれば良いのでしょうが、ホーム戦が年間30試合のバスケだけでは実現できません。造ることが先走って各チームの運営が苦しくなれば本末転倒。造るからにはコンサートやイベントなど幅広い層が楽しめて、本当に街を盛り上げられる施設を目指す必要があります。その多様な要素の中にバスケも入れてもらって、結果的にバスケ界の発展につながればうれしいです。

西村 新競輪場は複合型で競輪だけでなくロードバイク、BMXなど多種多様な自転車に慣れ親しんでもらえます。自転車競技はまだマイナーなので、子どもを巻き込んだイベントなどを開催して認知向上に取り組む予定です。またチケット収入が見込みづらいロードレースでは競技やチーム運営を通じたマネタイズが全体の課題なので、スポンサーの皆さまの支援に頼りながらも、自分たちでお金を稼ぐシステムを作らなければならないと考えています。

朝山 シーズンは後半戦に入りましたが、一つでも順位を上げられるように、そしてタイトルを取れるように、自分たちがやるべきことをしっかりと行っていきます。
西村 2月からシーズンが始まりました。7月5日に県立森林公園(三原市)、6日に商工センター(西区)で開催される広島大会を両日優勝し、シーズン全体では5回優勝して日本一を目指します。また個人的には広島や地域の皆さんを今以上に好きになり、皆さんにもチームを好きになってもらえたらうれしいです。
プロフィール
広島ドラゴンフライズ 監督
朝山正悟1981年6月1日生まれ、神奈川県出身。プロ5チームを経て2015年から広島ドラゴンフライズ所属。24年に選手を引退。専任監督として初シーズンながら3月9日に東アジアスーパーリーグで優勝。
ヴィクトワール広島 監督 西村 大輝
1994年10月20日生まれ、兵庫県出身。高校生でジュニアアジア選手権優勝。2013年から国内外の3チームで活動するも22年に持病が原因で引退。23年からプロの監督を務め、今年1月から現職。