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人材・組織づくり選手の貢献度を数値化 適切な評価で意識高める
広島東洋カープ
球団部一軍管理課長 井生 崇光 氏
試合中、常に選手のプレーに目を配り、シーズンオフの契約更改で年俸を算出する「査定担当」。個々の能力や意欲を高め、チーム全体の強化につなげるためのプロセスや着眼点を語ってもらった。
ー引退後の略歴を教えてください。プロ14年目の2012年に一度も1軍へ昇格することができず、引退を決意しました。その際に球団から他チームの分析を行うスコアラー就任の話をもらい、翌13年から3年間は主に阪神タイガースを担当。16〜19年は自球団のスコアラーとして、各チームの情報を選手に伝える役割を担いました。現在の役職になったのは20年です。
ーどのような仕事をしていますか。 試合中はベンチ横のブース内で、同部の阿部慶二部長(元選手・コーチ)と一緒に選手のプレーをチェックしています。試合前の業務は資料作り、監督やコーチを含めたスタッフミーティングへの参加、練習の手伝いなどです。春のキャンプから全日程終了、秋期キャンプまで、ずっとチームに帯同しています。
査定は野手であれば打率、エラー数など表に出る成績や数字だけでなく、より細かい一つ一つのプレーをポイント化する作業です。例えばセカンドの選手がゴロをさばき、一塁に送球してアウトを取れば「補殺1」が選手に記録されます。ただ、簡単なゴロの処理と、ヒットになりそうな打球を菊池涼介選手のようにスーパープレーでアウトにすることの重みは全く異なります。そうしたプレーの価値を、数値と文章を用いて正当に評価するのが仕事です。
投手・野手を合わせると、評価項目は200個ほどあるかもしれません。先発投手を例に挙げると、一般的には「6回を投げて3失点だったから及第点」、「8回1失点なので好投」といった評価がされます。もちろんそうした結果もポイントにはなるのですが、失点につながりやすいとされる先頭打者への四球があれば、その分を減点するなどプロセスの部分にも目を向けています。
評価するのは公式戦とクライマックスシリーズなどのポストシーズンで、2〜3月のオープン戦は対象外。また基本的にはグラウンド内のプレーだけを評価しています。なので、例えばベンチでチームの士気を高めてくれるタイプの選手もいますが、そうした貢献度は項目に含まれていません。
査定項目は選手からの要望などを受けて都度、見直しています。昨年オフには、内外野の複数ポジションを守る上本崇司選手から「準備の難しさや故障リスクを考慮して、査定ポイントに加えてほしい」と意見がありました。
項目に沿って査定していくのですが、このプレーは大きな貢献なのか、それほどではないのかなど、線引きに迷うことはあります。私と阿部部長の間で見解が分かれる場合もあるので、その都度話し合って結論を出しています。
また一例として、不可解な場面での盗塁失敗といったケースではサインの伝達ミスの可能性があるので、後日、誰のミスかをコーチに確認を取って評価に反映させます。
ばったり会った際などに、雑談やアドバイスの延長で伝えることもありますが、正式な場はオフの契約更改です。報道などで表に出る「本契約」は短時間で済むことが多く、実際には事前に「下交渉」という話し合いを設けています。時期は10月末頃、若手選手から行います。1年間で積み上げたポイントを資料として提示し金額に換算。選手がイメージする額とすり合わせていきます。
下交渉では、提示額と選手の希望に大きな差が出ることがあります。特に、その年に急成長した選手は高額での更改が初めてなので、期待が大きくなり過ぎているケースも。また最近は選手がチームの枠を超えて交流する機会が多く、他球団の事例と比較される場合もあります。
重要なのは、そこで選手のモチベーションを奪わないこと。もちろん球団によって評価の基準は異なりますし、こちらも根拠を持って算出していますから、簡単に折れるわけにはいきません。しかしお金の話は非 常にデリケートです。この試合で、このプレーが何ポイントのマイナス査定になったから、など具体的な説明をしていきます。下交渉は1人の選手に1回で2時間近く費やすこともあり、双方が納得するまで何回でも実施します。
寄り添う姿勢が大切と考えています。誰もが自分の働きを評価してほしい、少しでも多くの金額をもらいたいという思いを持っています。批判的に捉えるのではなく、主観の部分も交えながら「この部分は良かったよね、でも球団として求めるのはこういう項目だよ、ここはもっと頑張れたよね」といったフィードバックを心掛けています。
普段のコミュニケーションも重要です。交渉で選手から理解を得るためには、こちらの話を聞き入れさせるのが大前提。選手とスコアラーを経験した立場として、ちょっとした気付きや助言を日頃から伝え、信頼してもらえるよう意識しています。
毎秋、編成部が中心となって戦力の整理を進めていきます。誰を整理の対象にするかを決める際に、私たちのデータも参考にしていると思います。逆に、監督・コーチが主に関わる戦術面で利用することはありません。
ー査定業務で目指すものは何でしょうか。 チームの強化が全てです。査定はそのための手段に過ぎず、目的になってはいけません。各選手の貢献度を測り、評価を年俸という形で適切に伝えることで、選手はより高い意識で試合や練習に臨めると考えています。
若い選手は目の前のことをこなすのに必死です。「チーム全体の方針を理解してプレーをしなさい」と言ってもなかなか難しい面があります。現役時代の私も主力ではなかったので、その気持ちは痛いほど分かります。
査定という仕事を通じて、少しでも若手の理解や成長を促すことができればうれしいです。そして一人でも多くの選手が1軍の舞台で活躍し、チームをリーグ優勝、そして日本一に導いてくれることを願っています。
選手からの信頼が大前提 若手の成長を促したい
プロフィール井生 崇光 1981年3月12日生まれ、北九州市出身。98年ドラフト2位でカープ入団。2012年オフに引退しスコアラーへ転身、20年から現職。
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