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人材・組織づくりユース出身初の強化トップ 日本一の育成型クラブ目指す
サンフレッチェ広島
雨野 祐介 本部長
今季からトップチームと女子チーム「レジーナ」を統括する強化本部が新設され、ユース(下部組織の高校生チーム)出身者として初めて強化部門を率いる。チームの編成や選手育成にどのように向き合うのか。意気込みや思いを聞いた。
ー男女チームを統括する強化本部長に就きました。どのような役割を担いますか。 当クラブは「サッカー事業を通じて、夢と感動を共有し、地域に貢献します」という理念を掲げています。目の前の勝利を目指す「チームづくり」だけでなく、この理念に沿った中長期的な「クラブづくり」が重要だと考えています。
例えばチームづくりの役割の一つに、新戦力の獲得などチームの補強があります。単にチームのウイークポイントを補うだけでなく、勝利のためにひたむきに、そしてがむしゃらに取り組める選手を探し、見極めます。もちろん国内リーグの試合に目を通しますし、エージェントなどを通じて海外選手の情報も収集します。これらの情報をしっかりと精査し、納得した上で獲得交渉を進めていきます。
選手は「主語が自分」でいいと思うんです。でないと大成しませんから。けれど、これが組織となったときには「チームのために尽くす」という心構えが重要です。これは男子、女子、ユースなど、どのカテゴリーでも同じ。チームのために取り組めるかどうかをしっかりと見極めます。
ーサンフレッチェは「日本一の育成型クラブ」を目指しています。 全Jリーグクラブに先駆けてユースで全寮制を敷きました。「サッカー〝を〟教えるのではなく、サッカー〝で〟教える」。プロを目指していても競技に打ち込む時間は毎日2時間ほどで、それ以外の時間が圧倒的に長い。サッカーだけ一生懸命やっていればプロになれる、自立した人間になれる、ということはありません。当クラブは「サッカー以外の部分」も大切にしているのです。
こうした考えをまとめた「クラブ綱領」をユースやトップ選手、スタッフの多くが持ち歩いています。これは私たちの幹となるものです。現チームではアカデミー(下部組織)出身選手14人と、青山敏弘や松本泰志などのホームグロウン(特定期間を自チームで育成した選手)が率先してこの理念を遂行しています。そして、彼らが〝サンフレイズム〟をしっかりと次世代につないでくれると信じています。
16歳からお世話になっていて、ユースのコーチも務めましたし、クラブの考えを理解しています。先人たちが30年間でつくり上げてきたものを、これからの30年間につなげていくことが使命です。
アカデミーの育成方針として、選手のためにどれだけ時間を使い、真摯に向き合っていくかを大切にしています。ユースにはその地域で一番技術力の高い子どもたちが集まります。今までは「自分が一番」だった選手が36人のチームになると、どうしても36番目の子が出てくる。その子に対してどのようにアプローチするかも肝心です。特に私がユースのコーチだった頃は、試合に出られない選手に寄り添うことが多く、何が足りないのか、何に取り組めば良いのかといった対話に重点を置いていました。その時はくすぶっていても、努力を重ねてプロになった選手もいます。技術面の「コーチング」と、姿勢を教える「ティーチング」の使い分けが重要なのです。
21年の女子チーム「レジーナ」発足に併せて、その強化部長に就きました。クラブがこれまで取り組んできたこと、大切にしてきたことをそのまま女子チームにも反映させました。男子は非常にアグレッシブでスピーディーな試合展開が多い一方、女子はボールを丁寧に扱うひたむきさなどが醍醐味です。発足当時はコロナ禍で、気持ちの落ち込んだ県民を勇気付けたいという思いでまい進してきました。これからは全体を統括する立場として、みなさんに一層愛されるクラブに育てていくことが一番の仕事だと捉えています。
強化本部のスタッフがより仕事をしやすい環境の整備も大切な役割です。監督、コーチングスタッフ、メディカルグループなどのプロフェッショナルな人材たちが、その力を存分に発揮できるように支えていきます。私は今西和男さん(クラブ発足前後の総監督)や前強化部長の足立修さん(現・Jリーグフットボールダイレクター)など偉大な先輩たちのように強いリーダーシップがあるタイプではありませんが、対話を重ねて連携を密にとりながら、役割を果たしていきたいです。
「万人が師」という言葉を大切にしています。高校時代に大きな怪我(左足首三角靱帯断裂)を経験。それまでは「自分の力だけで成長してきた」と思っていた節がありました。競技を諦めることも考えましたが、さまざまな人の支えがあってピッチに戻ることができ、SC鳥取(現・ガイナーレ鳥取)プレーすることもできました。
私は未熟な人間です。監督やコーチ、選手、スタッフ、家族など誰からでも考え方や姿勢を学ぶべきことがあります。どれだけ学んでも、死ぬまでに知らないことの方が圧倒的に多いわけですからね。
今年は新スタジアム元年。候補地選定などさまざまな背景や、いろんな人の思いが詰まったこの「夢の器」とともにクラブは次のステージに入ります。このピッチに立ちたくても立てなかった選手もいます。今いる選手たちには思う存分プレーしてもらいたいし、そのサポートを精いっぱいしていきます。そしてこうしたタイミングで強化本部長に就いた立場として、育ててもらったクラブに少しでも恩返しができればと思いますし、一緒に成長し続けていきます。
プロフィール雨野 裕介 1978年4月10日生まれ、愛媛県出身。サンフレッチェ広島ユースコーチやガイナーレ鳥取トップチームヘッドコーチ、サンフレッチェ広島レジーナ強化部長などを歴任。24年シーズンから現職。
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