広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2023年10月19日号
先人の魂を示す

マツダが世界で初めて量産化を実現したロータリーエンジン。1967年に待望のコスモを発売以来、世界へ飛躍すると誰もが胸を高鳴らせたが、冷水をぶっかけられる苦難が待ち構えていた。
 高度経済成長に伴うマイカー時代が到来する中、唯一無二のロータリー技術を持つマツダが存在感を示し、揺るぎない個性を放った。次なる目標は米国向け輸出。一般的なエンジンでは到底かなえることができない高い走行性能が自動車大国でも十分通用すると自信を持っていた。
 しかし輸出計画を練っていた矢先、現地で公害問題が深刻化したのを受け、70年に「マスキー法」が成立。排ガスの燃え残り成分である炭化水素の排出量を5年後から厳しく制限する法律で、ロータリーエンジンには極めて不利な規制とされた。一時は米国で走ることは困難という声が上がったものの、炭化水素に空気を加えて再燃焼させる技術を開発。73年にマスキー法の基準をクリアし、環境面での課題を克服したことで世界への道が開けると思われた。
 ところが同年末に第一次オイルショックが起き、原油価格が高騰。それまでは重要視されることの少なかった燃費性能が問われるようになり、燃費に弱点を抱えるロータリーエンジンの評価は急落。廃止論が出るほどの窮地に追い込まれながら、当時の松田耕平社長は社員へ宣言した。
「ここでロータリーの火を消してしまえば、ファンへの信義を欠くことになる。今から5年の間に燃費を40%改善する。技術で失ったものは、技術で取り戻すのみ」
 フェニックスと呼ばれた計画で課題を打開するきっかけは、これまでの研究の積み重ねだった。マスキー法へ対応すべく考案した、炭化水素が再燃焼する仕組みを応用。発生した熱を再利用する手法を編み出したことなどで、当初目標を大きく上回る50%以上の燃費改善を実現する。生まれ変わったエンジンは78年発売の「サバンナRXー7」に搭載され大ヒット。マツダ再浮上の立役者となった。
 80年代からモータースポーツ参戦を本格化。91年のル・マン24時間耐久レースでは4ローター、700馬力のエンジンを乗せたレーシングカー787Bが日本車初の総合優勝に輝く。同年は希代の名車と呼ばれた「アンフィニRXー7」を投入し、ロータリー黄金期が到来する。
 だが、程なくバブル経済が崩壊。長い不景のトンネルに突入し、スポーツカー人気が低迷した。RXー7は2002年、後継のRXー8も12年に生産を終了。ロータリー搭載車は世界の市場から姿を消した。その後は補修などの用途で製造を続けながら復活の道を探ることになった。
 11月に発売する「MXー30ロータリーEVモデル」は軽量かつコンパクトな構造を生かし、直接的な駆動力ではなく、プラグインハイブリッド車の航続距離を伸ばすための発電機を担う。将来は水素など新しい燃料との好相性を生かす方法が検討されており、環境対応の面でも期待が膨らむ。小島岳二(たけじ)専務は、
「復活を待ち望んでいたという声を多く頂く一方、中国や欧州などで電気自動車の普及が急速に進む中、なぜ内燃機関のロータリーにこだわるのかという意見もある。しかしこのエンジンは飽くなき挑戦を続けてきた当社の歴史の象徴。先人たちの魂を次世代に示すため、これからも絶やすことなく造り続ける」

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