広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年6月23日号
広島の評判を上げる

何のために仕事をしているのかと一喝された。漫然と目先の業務をこなすだけでは、気付かないうちに仕事の本質を見失う。上司から予想さえしなかった大目玉を食らったことが、転機になった。
 キリンビール(東京)の企画部部長で、2020年に広島県の初代CBO(チーフ・ブランディング・オフィサー)に就いた山田精二さん(57)が30代の頃の体験を明かしてくれた。営業からマーケティング部に移って4年目。上司から仕事内容を問われて、担当していた糖質オフの発泡酒「淡麗グリーンラベル」の商品開発と答え、何と大目玉。
「仕事には具体性がないといけないと思っていた。酒の業界に健康という価値を持ち込み、新たな市場を開拓するという視点が欠けていた」
 仕事への姿勢が変わった瞬間だった。糖質カットのビールはおいしくないイメージがあった当時、競合メーカー共に同ジャンルでのヒット商品がなかった。担当する商品を売るだけではなく、自ら市場を創り出す広い発想を求められた。コンセプト設計から商品開発、パッケージ、販売まで一貫した戦略をつくり、既存品の3倍を売り上げる異例のヒットを飛ばした。
 いまは企画部を引っ張り、そして月のおよそ3分の1を広島県政の仕事に充てる。
「県のブランドづくりやマーケティング戦略を加速させたいという湯崎知事から当社に打診があり、マーケティングに長く携わった広島出身の私に白羽の矢が立った。CBOの使命は広島ブランドを再構築すること。平たく言うと広島の評判を上げることです」
 ブランドづくりの前にまずは人づくり。職員にマーケティング思考を根付かせるために「CBO塾」と名付けた約4カ月1クールの学びの場を設け、各回に30代前半を中心とする10人ほどが参加。座学だけではなくそれぞれに課題を与え、最後は湯崎知事への直接プレゼンテーションで締めくくる。
「真のマーケティングは人づくりから始まると思う。さまざまな施策に取り組む職員がどのような姿勢で仕事をこなすのか。縦割りの仕事は効率的だが、一つ一つの仕事が県民の幸せにつながっているという発想が抜け落ちてしまう。まずは庁内に意識を浸透させたい。自走する組織になれば、それは大きなうねりになる」
 3月に県内外の人へ向け、広島の魅力や誇りをより感じてもらおうと「明日への元気をくれる」県という統一イメージを打ち出した。復興のエネルギー、豊かな食文化、スポーツへの情熱、都市と自然が近接した質の高い暮らしなどを元気の言葉に込めた。併せて発表したシンボルマークの活用を企業に働きかけるなど、県民一体で機運を高めていく狙いだ。
「ブランドづくりは一朝一夕に進まない。例えば居酒屋の店主は料理を提供する時に広島にまつわるストーリーを語ってほしい。瀬戸内のどこで採った魚だとか、広島の魅力を自慢してもらいたい。それだけで来店客の満足度は確実に高くなる。莫大な広告宣伝費を投入するPR手法もあるが、広島ブランドの底上げは県民の小さな積み重ねが大きな力を発揮する」
 もう一つ、カープのひと踏ん張りも期待したい。

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