誰しも目的を成し遂げるために目標を立てる。しかし、やみくもに契約件数や売上高などの数値目標を追っ掛け、翻弄されると、何のためかという本来の目的を見失うことがある。だが、経営危機に陥り、従業員が散り散り去っていく事態になれば、創業の目的、経営者の志はこなごなに砕ける。こうした経営破綻の例は枚挙にいとまがない。
目的と目標がぴたりと重なり、経営の好循環を創り出すことが、経営者の責務なのだろう。2年続けて日本一、全国146信組の頂点に立った広島市信用組合(中区袋町)の山本明弘理事長は、
「ひたすら足で稼ぐ現場主義を貫いてきた。そうした毎日の経験を重ねて取引先目線(顧客満足)と職員目線(従業員満足)の考えが自然に身に付いたと思う。融資先がつまずくこともある。そのとき毅然として再建計画を提案し、共に前へ進めていくことのできる信頼関係が、全ての土台になる。わが都合だけの営業で信頼を得ることなどできない。常に相手の立場に立って考える。地域、取引先に役立つという金融機関の役割、使命を逸脱した営業は限界があり、やがて取引先からも見放されて信頼関係が破綻することになる。当たり前のことを当たり前にやって、嘘やごまかしがない。基本を守る。大きな声であいさつする。そうすれば取引先は自然と応援してくれる。それが預金集めと融資に徹するシンプル経営の原点と肝に銘じている」
同信組が大事にしている一枚の表がある。この10年、段階的に、体系的に進めてきた人事制度の見直しで、▷役職定年制度、▷定年延長、▷女性の登用、▷給与の見直し、▷勤務時間管理などの項目ごとに経緯をまとめており、職員の待遇改善へ向けた長期的な取り組みや、その思いが伝わってくる。例えば、
・初任給が地場金融機関で一番高い。大卒21万1000円(外勤手当+2万円)
・各種手当から基本給への振替(計7万3000円)で退職金のベースが増加し、永年勤続する方が倍率アップする制度を採用。
・上位職への早期昇格。店長35人の平均年齢は約44歳で、7月には30歳の最年少支店長が誕生。
・出産祝金制度や出産・育児休暇の充実。この5年間で育児休暇からの復職率は100%。
・金融機関の本来業務特化のビジネスモデルで、投資信託や保険の販売をしない。
・役職定年廃止や定年延長(65歳)を先駆けて実施。
・年齢、性別、学歴を問わない上位職への登用。
この一連の取り組みが予想以上の効果を挙げた。「頑張れば報われる」という士気の高揚。定年延長で金融業務に経験豊かな人材の活用。新卒採用で応募者が増え、優秀な人材の確保。何より職場に活気がみなぎり、業績を押し上げる好循環を見事ものにした。
ぶれない、シンプル経営のすごさだろう。