広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2020年9月17日号
烈士暮年 壮心不已

心に響く言葉がある。元カープ投手の黒田博樹さんの座右の銘「耐雪梅花麗」(雪に耐えて梅花麗し)は、わが道を選び、幾多の苦難にぶつかり、ついに目的を成し遂げた爽やかな感慨が伝わる。人により、境遇により、胸に秘める言葉はさまざまだが、三国志に登場する曹操が詠んだ詩に、
 神亀雖寿 猶有竟時
 騰蛇乗霧 終為土灰
 老驥伏櫪 志在千里
 烈士暮年 壮心不已
 寿命が長いといわれる亀でもいつかは死ぬ時を迎える。霧に乗じて大空に舞い上がる竜でも、いつかは死んで土くれとなる。だが、一日に千里を走るといわれる驥は、年老いて馬屋につながれても、志だけは千里のかなたにはせている。それと同じように、老いて晩年を迎えても、勇者は志を忘れることはない。
 この詩は、中村角(西区草津港)の中村成朗会長(81)が当時、広島商工会議所の副会頭(1991〜97年)を務めた縁で、橋口収会頭から頂いた書にしたためてあり、いまも大切にしているという。
 橋口会頭の発想から口火を切り、広域連携の新しい事業が動きだした。多彩な都市圏を擁する広島湾。中四国地域の結節点に位置し、広域的な交流拠点として発展の可能性を秘めている広島湾域の一体的な基盤整備と機能強化に向けて、商議所は1997年に「海生都市圏構想」なる提言をまとめた。
 広島湾を6つのゾーンに分ける。①広島、廿日市市、坂町を「海生拠点」として国際物流拠点などを整備。②宮島と大野町を「迎賓拠点」、③大竹、岩国市を港湾物流機能の「臨海拠点」、④呉市を「海洋拠点」、⑤江田島市などの島しょ部を新たな生活圏域の創造を図る「共生拠点」、⑥柳井市や周防大島、防予諸島を海洋リゾート・リクレーション地区にする「回遊拠点」に位置付け、ウォーターフロントの長期的な整備方向を示した。
 海とのかかわりを視点に置いた壮大な構想である。商議所の広域交流委員長として中村さんは2年をかけ、広島県や広島市、柳井市など1県6市16町を訪ねて構想説明会を重ね、大半の首長と懇談。この過程で継続的な協議機関の設置案が浮上し、2000年7月に広島湾ベイエリア・海生都市圏研究協議会を立ち上げた。初のモデル事業「海から行く歴史深訪」クルーズで、広島港−周防大島、周防大島−倉橋島、倉橋島−周防大島の3コースを実施。陸路だと車でおよそ4時間の間も、海で結ぶとわずか30分の至近距離。改めて参加者は海の利便性を体感した。
 次に、経済産業省に事業採択されて体験型修学旅行の誘致に乗り出す。民泊方式による体験メニューや受け入れ体制づくり、旅行社へのプロモーション活動などの粘り強い取り組みが実り、年に1万5000人を超える修学旅行生が訪れるようになった。発想があり、これに賛同した多くの協力があり、やがて地域を巻き込み、大きなうねりになった。生徒と住民の交流、受け入れ地域間の広域交流を通じて地元が元気になり、教育や経済などに及ぼした価値は大きい。中村さんは、
「行政と民間がそれぞれの得意を分担。今日までに大勢の力が重なり合った。継続は力と確信した。あきらめない。志こそ人を動かす源です」

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