広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2020年2月27日号
旅と絵はよく似合う

日本人は自己PRが苦手とよく言われる。しかし黙っていてはその魅力に気付いてもらえない。世界に誇れる印象派の名画を多く所蔵するひろしま美術館が国内外へ、積極的な情報発信に乗り出した。
 初の試みとして、美術ファンがよく手にする全国誌や旅行ガイドに美術館の魅力などを掲載した。情報発信だけではなく、内容充実にも力を注ぐ。同館コレクションの中からよりすぐりの作品で構成した独自企画展「マイティネット創立45周年記念 印象派のいろは展」(3月22日まで)は、西洋絵画の伝統や〝印象派ってなに?〟などの疑問に答える、分かりやすい鑑賞のキーワードやポイントを展示作品に沿って示す。美術は敷居が高くて今ひとつ、という人にも興味を呼び起こすよう展示に工夫。西洋と日本の美術感覚の違いを室内のしつらえから具体的に触れることで印象派を読み解くなど、これまでになかった所蔵作品の新しい見せ方に挑戦しており、来館者の評判は上々という。
 1978年に開館。近年の年間来館者数は16〜20万人で推移。そのうち県内から訪れる人が約8割を占める。やはり人気を呼ぶ特別展の企画次第で来館者数が左右される傾向が強い。しかし地道な不断の努力がなければすべて色あせる。鑑賞の合間にひと息できる椅子を設置したほか、作品の写真撮影可、Wi‐Fi導入などの細やかな環境整備に取り組んできた。
 海外では、世界最大旅行サイトのトリップアドバイザーで昨年10月に発表された「旅行好きが選ぶランキング」美術館部門で第4位に躍進。また、優れた施設に贈られる〝エクセレント認証〟も世界トップレベルの評点で、5年連続で認定された。なかなかの成果を挙げている。烏田泰史広報部長は、
「特別展はむろん、美術館の存在をいつ、どの方法でアピールするのか、ターゲットを明確に捉え、効果的な広報活動を強化していく」
 2018年には体験型修学旅行の誘致事業で成果を挙げる広島湾ベイエリア・海生都市圏研究協議会に美術館のチラシを持ち込む一方、旅行者の受け入れ地域で独自の観光プログラムを開発する「着地型観光」にも注目。広島平和記念資料館には年間173万人(16年度)が訪れる。同資料館から原爆ドーム〜広島城〜縮景園へつながる道筋にある、ひろしま美術館と連携したプログラムによってさらに人を呼び込むことができる。中央公園内に描く市の文化ゾーン構想や、24年開業を目指すサッカースタジアムも控える。池田晃治館長は、
「焦土と化した広島で〝愛とやすらぎのために〟をテーマに収集された作品群は、印象派を中心に19〜20世紀の西洋美術の流れをたどれ、近代日本洋画、日本画を含め素晴らしいコレクションと自負している。まず、地元の方に楽しんでいただき、さらに広島を訪れる動機、目的が当館の美術鑑賞となるよう、今後も国内外へ情報発信します」
 旅行先で立ち寄った美術館で、目当ての作品に出会った感動は深い。そもそも旅と絵はよく似合う。そして広島に住む人が日常生活から抜け出し、休日などの街中散歩で気軽に美術鑑賞できる価値は大きい。心を洗う機会になればなおさらである。

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