広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2021年2月4日号
中国新聞社の決意

朝日新聞社は2020年9月中間連結決算で419億円の赤字に転落し、責任を取って渡辺雅隆社長が4月退任する。「構造改革のスピードが鈍かったことが赤字の背景にあることは否めず、責任は社長の私にある」とし、身を引く決意を固めたようだ。
 日本新聞協会のデータによると、20年の業界全体の発行部数は3509万部で、1年間で271万部減。ここ数年は毎年200万部ペースで発行部数を落とす。
 この、とてつもない難題にぶつかって大手各紙は、スマホなどを利用した有料電子版サービスなどワンソース・マルチユースやウェブファーストなどへの対応を急ぐ。一方で、こうした紙とデジタルの両面作戦が、新聞記者の取材活動にどのような影響をもたらすだろうか。デジタルで発信した記事に対する読者の反応は素早く、瞬く間にSNSで拡散する。読者の求める情報は何か。改めて原点の取材力に磨きをかけるチャンスになるかもしれない。中国新聞社の岡谷義則前社長はかつて、
「地方紙にとって新聞力とは地域の出来事を、あたかも地域の日記を書くように、過不足なく取材し、簡潔な文書で記事にし、事実の裏にある問題点について的確に論評し、読みやすい紙面に組む。こうした一連の仕事がきちんとできる力を言う。とりわけ、中国新聞が取り上げなければ日の目を見ないような地域のニュースを掘り起こし、発信し続けることが、地方に生きる新聞人の最大の役割であるように思う」
 淡々と話すが、新聞人の気概が伝わってきた。
 同社は今期(1〜12月)の重点目標としてデジタル発信力の強化を打ち出し、経営改革を断行する構えだ。まだ明確な姿形はなく、おそらく走りながら戦略を練り、結果を検証しながら作戦を立て直す繰り返しになるかもしれないが、陣頭指揮を執る岡畠鉄也社長の、デジタル化へ向かう決意は固い。
 さまざまな分野でデジタル化の可能性を探っている。県と連携し、今春からベンチャー企業と協業する「アクセラレータプログラム」の実証実験に乗り出す。54社から応募があったうち、次の4社=事業内容を選んだ。
▷コンシェルジェ=AIチャットボットプラットフォームの開発・販売・運用。社内問い合わせ業務のチャットボットを複数構築し、サイトに実装する。
▷ネクストビジョン=動画売買プラットホーム「ビデオキャッシュ」の開発・運用。ビデオキャッシュへの動画投稿キャペーンを実施する。
▷ギフティ=ギフトプラットホーム、ビーコン事業。広島市内中心部50カ所程度にビーコンを設置し、行動データを収集。
▷ネクストベース=スポーツ解析技術を生かした有料オンライン野球アカデミー事業。3カ月間のオンライン野球教室を開催する。
 新聞事業と一線を画す用語がずらり。井上浩一専務は、
「最適な情報を最適な所へ届ける『地域最適』ビジョンに向かって記事、画像、動画、音声情報を発信。 新時代に適した会社に生まれ変わる」
 いつでも、どこでも必要な情報を入手できる時代に突入し、新聞界も大変革期。チャンスをつかむほかない。

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