広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年8月1日号
考えるヒロツク

市場が縮小するつくだ煮業界だが、悲観している暇などない。〝こもち昆布〟で知られるヒロツク(西区商工センター)社長の竹本新(あらた)さんは10年前に30歳の若さで4代目に就任。当時17億円だった売上高は2024年3月期で23億円に伸長。1942年創業来、最高になった。一時はコロナ禍の影響を受けたが毎年、数千万円を地道に積み上げた。
 改善、挑戦の10年を振り返り、将来を語った。
「食文化の大きな変化にはあらがえず、コメの消費減に連れて、つくだ煮を食べる機会が減っている。ここ数年で北海道や京都を代表する老舗が民事再生や廃業に追い込まれるなど環境は一段と厳しく、主力原料の昆布の不作や価格高騰にさらされている。従来のやり方では中小がつくだ煮製造だけに依存して生き残ることが難しくなっているが、その周辺に目を凝らすと成長の余地が見えてくる。長年の間にこつこつと培った食品製造のノウハウを生かし、チャレンジし続ければ売り上げは伸びる。わずかでも毎年成長を続ける年輪経営を目指す。いまもつくだ煮の可能性にワクワク、ドキドキしている」
 何とかなる。果敢なチャレンジ精神が旺盛なのだろう。
 社長に就任早々、社内向けに「食べ方提案コンテスト」を始めた。料理を際立たせる食材や調味料に代わって、つくだ煮を生かすことができないだろうか。社員自ら食べ方を考える機会にしている。これまで年2回計20回を重ねた。ラー油昆布の汁なし坦々麺、あさり生姜煮スンドゥブ、黒豆かぼちゃプリンなど600〜700種類のメニューが生まれた。優秀作品をレシピ本にまとめ、商談時や顧客に配布。食べる場面を広げて消費拡大のチャンスをうかがう。
 10年間で最も変わったのは「社員の改善意識」と胸を張った。毎月、製造改善の取り組みを共有する場を設け、数字での管理・分析を徹底させる。もともと製造ラインごとに競争原理を取り入れることで効率化を図っていたが、工場長には全体を俯瞰して効率的な仕事の配分に徹してもらう。残業はほぼゼロ。混ぜたり袋詰めにする作業は機械化するなど、合理化投資も惜しみなく実行した。
 新たな挑戦も始まった。7月から全国展開するディスカウント店「ドン・キホーテ」の全店舗で同社の5商品の販売がスタート。粘り強い営業が実った。8月からテレビショッピングにも初挑戦。あじかん(商工センター)がゴボウ茶をヒット商品に育てた手法にあやかろうと、足利直純社長にお願いして直接テレビ局を紹介してもらった。ノウハウを生かしやすい介護食の製造にも参画し、既に確かな手応えを得ているという。
「大手との価格競争に勝ち目はなく、安売りはしないと決めた。価格は価値と同じと考え、少しでも高く買ってもらえる商品開発に力を注ぐ。社員が主体的に動いてくれて、理想としている、〝考えるヒロツク〟に近づきつつある。社長に就いた時は何をどう判断すればいいか分からず、それなりに失敗も経験。自分が最終責任を取ると覚悟している。もちろん悩みは山ほどあるが、どうせ悩むなら社員と楽しみながら、希望に向かって進めていきたい」
 尊敬する祖父の盛男さんは80歳を過ぎた晩年も会長として仕事に精を出し、背中で経営者の生きざまを示した。机上に答えはないとの教えに倣い、率先して取引先を巡り、現場に足を運ぶ。

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