広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年8月8日号
立ち続ける経営

凡事徹底。その精緻なものづくり技術が日本の道路やトンネルなどの社会インフラを足元から支え、揺るぎない地歩を築いた中小企業がある。
 道路舗装の下に敷く鉄筋をはじめ、トンネル用ロックボルト、ダムの埋設型枠などを製造する藤崎商会(中区江波南)は前2月期で売り上げ29億円を計上。2期連続で過去最高を更新した。2008年に創業者で父の喬(たかし)さんから2代目社長を継いだ藤崎和彦さん(58)は、その日から16年間で年商を2倍に増やした。
 まさに凡事徹底の日々。社員の改善案を吸い上げ、安芸高田市に構える工場でムリ・ムダ・ムラを徹底的に省いてきた。近年は特に自動化を推進。コスト削減分を次の投資に回し、さらに不良品率を下げる。安定した品質が受注拡大につながり、好循環を生んだという。経常利益は前年比30%増え、過去最高の1億7000万円。
「社長になっても会社の改革など念頭になかった。しかしものづくりに関しては一切妥協しなかった。全員が当たり前のことを100%できるよう精魂を込めた。良い物を安定的に供給していると口コミで伝わり、あちこちから声を掛けていただける」
 数年前から全社員43人との間でワンオンワン面談を重ねており、立場の異なるそれぞれの考えに耳を傾ける。いま困っていることはないか、現場に問題点はないか、どうすればよいと思うか、聞くことはいつもシンプル。できることは即実行。提案結果を実感した社員は次の面談でも積極的に意見を出してくれる。
 広島新庄高校の野球部時代に日々鍛え上げられた体験を踏まえ、
「企業も野球チームも同じ。皆が主体的に知恵を絞り、役割を全うする。繰り返し練習し、当たり前のことがちゃんとできるようになる。凡事徹底こそチームに最も大切だと確信している」
 14年に売り上げ15億円を超え、18年に初めて20億円を突破。以降は20億円台が続く。そもそもはダム・トンネル用資材を主力としていたが、次第に空港の滑走路やリニア新幹線の舗装資材などに生産品種を増やしてきた。納入先も次々と開拓するが、意外にも参入時の目標受注額を定めない方針という。
「最初は小額の納品でよい。中小企業が最初から大風呂敷を広げると、営業や生産、財務のバランスのどこかにひずみが生じる。むしろ枝葉の広がりに価値がある」
 ネジ1本、ボルト1本に手を抜かない姿勢が評価されたのだろう。16年に開発した、鉄筋コンクリ舗装で斜交鉄筋網を敷く新工法「FKメッシュパネル工法」はゼネコンから信頼されて高速道などの舗装工事に採用されている。
 今期は、クレアライン4車線化工事が本格的に始まるほか、東海環状道全通に合わせた舗装工事の受注も見込む。30年度以降に完成予定の北海道新幹線延伸トンネル工事へ引き続き納品するなど好決算を見込むが、社内で売上目標は22億円と掲げる。
「当社の売り上げのベースラインは20億円と見積もっている。目前の30億円突破といった数値を追うあまり、品質管理がおざなりになれば全て台無しになる。品質改善を重ねて折れない根幹をつくり、何があっても立ち続ける経営を目指す」
 1967年創業。応接室に「商(飽きない、諦めない、商い)」の書を飾る。

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