風土に育まれた、独自の文化や伝統は言葉の壁を越え、世界の人を引き付けてやまない。いま日本が人気という。円安を追い風に、やはり昨年5月に開かれたG7広島サミットも大きな呼び水になったのだろう。
中区の仏壇通りで広島仏壇と漆器を製造販売する「高山清」4代目で、広島漆芸作家の高山尚也さん(43)は、日本の漆芸に触れてみたいと海外から人が訪れると言う。
4月から体験ツアーを本格化。月2〜3組ほどだが、欧米中心に旅行会社向けメニューを用意する。漆を塗る製作現場を見て、伝統の奥深さを感じてもらう。高山さんは、
「広島漆芸は、京都山科の砥の粉と広島の牡蠣(カキ)殻を砕いた胡粉をブレンドして漆塗りの下地に使う。独自の技法により京都の技術と広島仏壇の歴史をつなぎ合わせたいという願いを込めた」
作り手の思いや技法など、伝統の真髄を伝えることがいかに大切か。海外から訪れた人は文化や伝統に関心が高く鋭い感性を持つ人が多い。
そうした本物志向に応えるための体験メニューの工夫とともに美術専門の知識を持つガイドの存在が欠かせない。人材養成の仕組みも整えていきたいと話す。
7カ国首脳らが手にした広島の伝統的工芸品が話題になった。瀬戸内海の多島美などをイメージした高山さんの酒器セットや漆器椀のほか、金城一国斎さんの蒔絵グラス、宮島御砂焼窯元の対巌堂三代山根興哉さんが折り鶴の灰を練り込んだランプ、宮島ロクロ細工菓子器などが多くの人を引き付けた。来年1月、広島港に寄る大型客船の乗客を対象にした体験ツアーも予定している。
2023年の外国人延べ宿泊客は3年ぶりに増え、1億1434万人。うち広島県は129万人だった。電通は7月、世界15国・地域の7460人(20〜59歳)に実施した調査結果を発表。「観光で再訪したい国・地域」は日本が34.6%で突出し、2位以下を大きく引き離す。訪日旅行での期待は「多彩なグルメ」が28.6%で最も多く、次いで「他国と異なる独自の文化」が27.9%。地方観光では「言語への不安」が目立った。
高山清は大正2年(1913年)に塗師屋で創業。塗師として寺院や仏壇から仕事を受ける。漆塗り技術は1619年、紀州藩主浅野長晟(ながあきら)の広島城入城に随従した職人から伝わった。その後、僧が持ち込んだ京都や大阪の仏壇仏具の製造技術と重なり広島仏壇が生まれる。大正末期には全国一の産地を形成するまでになった。
しかし生活様式の変化などで仏壇需要はコンパクトな家具調にシフト。本社2階を仏壇展示場から広島漆器のギャラリーに刷新した。
「必要とされる形や用途に変えて伝統を守る。日本ならではの伝統を尊びながら新しい発想で磨き、仏壇づくりの技を次代へつなげたい」
県内の伝統的工芸品は経済産業大臣指定5、県指定9つを数えるが、担い手不足の悩みを抱える。江戸期の書院屋敷、茶寮を構成再現した上田流和風堂の16代家元の上田宗冏(そうけい)さんは、
「浅野藩家老として上田家は茶の湯でもてなす数寄屋御成という習わしを長い歴史の中で育み伝えてきた。昨年の広島サミットを振り返えると、広島の底力を実感しました」
不易流行。進取の気風が新しい文化を育み、伝統を守っていく源泉なのだろう。