日々の暮らし、自然界の営み、産業、地球を守る革新的な技術になるだろうか。
太陽光発電や蓄電システムを開発するQDパワー(中区本通)は7月、次世代技術と目される全固体電池を用いた「系統用大容量高性能蓄電池システム」の組み立て工場を廿日市市大野で稼働した。一般的なリチウムイオン電池の液体状電解質は温度変化に弱く、発火や液漏れの可能性がある。全固体電池は文字通り電解質を全て固体にすることでそのデメリットを解消。高密度なためエネルギー出力は数倍に高まる。
現在、最もシェアの高い製品と比較して1メガワット時当たりの年間CO2排出量を30%以上削減できるという。同社会長の川本忠さん(64)は、
「現代社会の営みは、あらゆることにエネルギーが必要とされている。農業などの自然を利用する分野もスマート化によって、エネルギー消費が加速していく。電力そのものの仕組みから抜本的に対処する必要がある」
例えば、太陽光や風力による発電量は天候と季節の影響を受けやすく、需給調整が難しい。高性能蓄電池を用いることで、その時の需要より多く発電された場合はいったん蓄電池にためておく。電力が不足した時には蓄電池にためていた電力を供給するマイクログリッド(小規模電力網)が解決策になるという。
需要ピーク時の供給にインセンティブがある国のFIP制度やJEPX(日本卸電力取引所)に加え、将来の電力供給力を取引する容量市場が本年度からスタート。電力をためて使う技術に追い風が吹いてきた。
川本さんは早稲田大学政治経済学部卒。35年前に、大学の先輩で現在は東京工業大学名誉教授を務める玉浦裕さん(77)の地球温暖化に関する講演を聞き、共感した。
「私は当時、全日本学生庭球同好会連盟の初代理事長を務め、スポーツ選手支援業務の会社を経営していた。スポーツと健康は切っても切り離せない。地球環境はどうなっていくのか。温暖化が人々の生活や健康に及ぼす影響は計り知れない。何とかしなければいけないと考えた」
これが人生の指針を決めたのだろう。1999年に大和ハウス工業グループのグリーンファーム開発の設立に参画したほか、「スポーツ選手の農業就業を通じた地方創生と新時代の農業システム開発」などに携わり、農業コンサルタントとして独立。2017年に卵殻でアパタイトと呼ばれる化合物を作るバイオアパタイト社、同年に電力自給自足型スマート農業のシステムを提案するトレスバイオ研究所、22年にパイライト太陽電池開発のQDジャパンを東京などで相次ぎ設立。東京工大の「超スマート社会推進コンソーシアム」では農業スマート化を担当した。
「系統用蓄電池システムは東京工大の技術指導を受けて、東京のソリッドバッテリーと共同開発。広島は玉浦名誉教授の出身地で各方面から情報が入り、工場を構えるイメージが湧いた。何より、国際的な知名度の高い広島から、世界へ出荷したいと決心。地元企業とオープンイノベーションを重ねながら、モビリティーや航空宇宙、データセンター、防災、医療など用途別に開発していく。全ての家に蓄電池が置かれる時代は近いうちにやってくる」
国内数カ所に同様の工場を計画する。川本さんが描く構想は遙かに大きい。