広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年9月12日号
廿日市市の挑戦

廿日市市に入り、西広島バイパス下りの佐方サービスエリア付近に差し掛かると右手に、山肌があらわになった大規模な造成工事現場が視界に飛び込んでくる。
 同バイパスと山陽自動車の宮島サービスエリアの間に広がる一帯約70ヘクタール。市を含む地権者で構成される平良丘陵開発土地区画整理組合が事業主体となり、総事業費169億円で工業および観光交流の施設用地(各約15ヘクタール)整備へ、造成工事に昨年5月着工、2026年度完了する運びだ。
 既に工業団地は市内外から約20社の進出が予定されているという。観光交流施設は200室規模のホテルや温浴施設、レストラン、スイーツや調味料体験エリアなどを設け、29年度の開業を目指す。〝食と癒やし〟をテーマに地域資源を生かした複合リゾート施設を全国展開するアクアイグニス(東京)などで構成される合同企業体で運営を検討している。年間約400万人の誘客を見込み、約200億円の観光消費増加を試算する。
 アクアイグニスの立花哲也社長は昨年7月にあった記者会見で海のカキやレモン、酒、木工など豊富な特産品の魅力を挙げ、廿日市に寄せる思いを述べた。地元に根差す個店を大切に地域一体となった、にぎわいのある整備構想を描く。昔食べた町の中華そばの味が忘れられないという。関連業務を一括代行する西松建設はテナントリーシングへ地元の味を探索中。
 そこから車を十数分走らせると瀬戸内に浮かぶ宮島が左手に見えてくる。今年の来島者は最多を記録した19年の465万人を上回る勢いだ。昨年5月のひろしまG7サミットを機に欧米中心にインバウンドも増え、島の宿の稼働率も高水準で推移している。
 宮島の東部にある包ヶ浦自然公園の開発計画をめぐり、賛否両論が渦巻く。自然公園は旧宮島町が1978年に開園。15.5ヘクタールにケビン31棟やキャンプ場などを備え、海水浴場としてピーク時には年間16万人が訪れた。近年は利用が落ち込み、3月末で有料施設の利用を停止。2022年2月、観光庁事業に採択されて市は富裕層狙いの宿泊施設誘致へ、26年度開業を目途に公募型提案制度で事業者を選ぶ方針を固めていた。
 包ヶ浦は1870年代後半から開墾が始まり、1900年代に広島湾要塞の一部として鷹ノ巣浦に砲台を建設するための軍用地となった。26年以降から45年まで広島兵器廠だった歴史がある。
 市有地10.8ヘクタール、残りが国有地。誘致計画は1部屋10万円以上を想定し、新たな来島者を掘り起こす狙いだが、反対の声が上がり、島民の70%以上を集めた総数1万3815筆の署名を町議会へ提出。計画はいったん凍結し、協議を重ねて関係者の意見や要望を受け止めながら新たな展望を探る状況だ。
 もう一つ。宮島を望む県内唯一の宮浜温泉街は新たな源泉の配湯工事を来年度に控える。市と6温泉宿泊施設でつくる組合は2037年までを想定した「活性化基本構想」を実現すべく、温泉街のブランド化に乗り出した。散策が楽しめ、地元食材を使った宿泊プランなどを検討中だ。
 観光振興と移住定住促進を目指す市の宮島まちづくり基本構想を具現化するプロジェクト「千年先も、いつくしむ。」も動き出す。守るべきもの、伝えるべきもの、できることがあるとうたう。将来の発展を引っ張るプロジェクトがスタートラインに立つ。

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