人から押しつけられると逃げ出す。自ら奮い立つと、何が何でも目的を遂げようと突っ走る。本能だろう。
システム開発の広島情報シンフォニー(東区)は作戦を変更して、社員のやる気を引き出した。若手が主導したDX推進プロジェクトをきっかけに、複数の自社プロダクトの商品化にこぎ着け、想定以上の、確かな手応えを得ているという。
当初は、社内DX化を目的にプロジェクトをスタートさせた。前年までは上長の指名制でチーム編成したせいか、取り組みの主体性などに課題を抱えていたが昨年から立候補制に変えた。あるいは一人も集まらないのではという懸念もあったが、社内告知したその日の内に20代の5人が名乗りを上げた。
チーム運営の仕方も彼らが決めた。本来業務の負荷を軽減するなど無理なく取り組める環境を整え、上司は極力遠く離れて自主的な行動を見守ることに徹した。何か問題点を見付けると、つい口をはさみたくなるが「任せておけ」と我慢したのだろう。
彼らと昨春発足した研究開発チームが一緒になり、データ分析やAI技術活用、新ビジネスアイデアの3チームでDXツールを開発・実証。これまでに工程・外注管理などのさまざまなデータを統合・分析する情報基盤のほか、育児休暇の取得手続きや出張時の手当の確認などの社内規定に関する質問に答えるAIチャットボット、社員の居場所や内線番号、その日の気分や一言コメントを共有する新たなサービスが生まれた。
今秋にかけ、社外へもDXツールの提供に乗り出す構えだ。岡崎昌史常務は、
「チームの一人一人が他部門にも積極的に出掛け、意見を聞いて回るなど、その頑張る姿にみんなが触発された効果が大きい。自分事として捉え自ら動く意識が広がったのだろう。志願し、データサイエンティストの勉強に取り組む社員も増えている」
データに隠されている情報を読み解き、経営の意志決定に必要な示唆、助言を行うデータサイエンスが注目されている。高度な分析能力、数学と統計、人工知能などを総動員する。これをこなした先が競争相手なら手強い。
言うまでもなく、DXは企業の成長戦略を支え、企業間競争に打ち勝つ重要な切り札になってきた。その一方で、大きな成果につなげているところと、限定的にとどまっているところを比較すると大きな差があるという。その差は何か。専門家は「人間力」という。そもそもDXの本質は業務効率化にとどまらず、企業文化や業務の流れも根本から変革することになる。
むろん技術的なスキルがないとどうしようもないが、本来の企業目的を達成するには経営トップの理解、リーダーシップに加え、変革を引っ張ることができる人材の養成、多様な立場の人の意思疎通を図り、問題解決へ向けたみんなのやる気が、何より不可欠という。何のために何をしようとしているのか。そこから踏み出すほか手はない。
とても人間くさい。その課題はいつの時代にもあっただろうが、いまは人間力とDXが手を組み、将来を切り開くチャンスなのだろう。
広島情報シンフォニーは 製造業向けDX支援などが貢献し、2025年3月期売上高は過去最高の20億円を突破。人間力とDXをつなげるコツを発見したプロジェクトの効果は小さくない。