多くの蔵元を訪ねた。土地柄や気候、その地に伝わる物語を知り、さらに銘酒へ寄せる思いは募った。
〝日本の酒〟に特化した独自の成長戦略を描く酒類販売の酒商山田(南区宇品海岸)は10月1日、京王百貨店新宿店内に出店する。いま日本最大級のデパ地下へリニューアル中の西武池袋本店内に次ぐ都内2店目。新たな挑戦のチャンスをつかみ、日本の酒の底力をインバウンドに沸く都心から発信する。
蔵元やワイナリー400社以上の6000アイテムを扱う。市内4店と東広島、福山市、都内2店の計8店の直営ほか、大阪のエディオンなんば本店の酒売り場を運営。百貨店直営だった酒売り場を引き継ぐ新宿店は、海外のワインやウイスキーなどもそろえる〝世界の酒〟店をうたう。百貨店には卸さない蔵元も含め、83平方メートルの売り場に1000アイテム計5000本を置く。山田淳仁社長は、
「1日350万人が利用する新宿駅に直結した百貨店で売り場の専門店化はできない。人気の海外酒はむろん、当社ならではの品ぞろえと店づくりを期待されたのでしょう」
新宿店、年明け以降のリニューアルオープンを待つ西武池袋本店それぞれ3億円と5億円の年商規模を見込む。
酒商山田は1931年に創業。3代目の父親が病に伏し1989年に実家に戻る。当時の年商は約1億5000万円。借入金の返済金利に追われる厳しい状況だった。どう立て直すのか。翌年、日本の酒をテーマに〝存在価値のある会社を創る〟と決意。その後、ドミナントによる成長戦略、コラボやアライアンスによる業界の活性化など次々と新機軸を打ち出した。
日本酒の国内出荷量がピークの4分の1まで落ち込む逆風に立ち向かうように業績を伸ばしてきた。2027年3月期で初の20億円突破を見込む。新たな需要を生み出した決め手は何か。
「出荷量が増加傾向にあった〝特定名称酒〟に着目した。原料や製造方法等の違いで吟醸酒、純米酒、本醸造酒等に分類される。実働する酒蔵約1000のうち、95%以上が中小や個人の蔵。そうした小さな蔵のこだわりや情熱が、個性ある酒造りを支え、風土に応じた豊かな食文化を醸成する。互いを疲弊させるような価格競争から抜け出し、価値で競争することにした。日本の酒を伝えていく。使命が定まり、戦略の軸ができた。〝戦わない経営〟が可能になってきた」
戦わないために多店舗展開するとともに、選りすぐり銘柄を独自の日本酒シリーズとして全国の酒販店に卸す「コンセプトワーカーズ・セレクション(CWS)」を企画。蔵元と酒販店、ゆくゆくは酒米農家が共に潤う仕組みを生み出した。こうした〝異質化戦略〟が都心で勝負する実力を養ったのだろう。来年、新たに山形の秀鳳(秀鳳酒造場)、三重の半蔵(大田酒造)、山口の天美(長州酒造)など6銘柄が加わり、CWS参画蔵元は41蔵になる。
価値で戦う経営を軌道に乗せた。かつて数億円で推移した頃の売り上げは料飲店などへ卸す業務用が8割近く占めていたが、27年3月期決算で16%を切る見通しという。
6年後に控える100周年ビジョンに「独創的価値共創企業」を掲げた。働きがいのある職場づくりも進める。来年2月には新社屋も建つ。
「人を感動させる人生を生き切りたい」と先を見る。