広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2025年10月2日号
安芸灘の誇り

日本は古来、海藻類を多く食生活に取り入れてきた。ワカメ、コンブなどは和食の名脇役として、料理の腕の見せどころという。もう一つ。ヒジキはヨウ素やカルシウム、マグネシウム、鉄分、食物繊維を多く含み、血液を固まりにくくする作用で動脈硬化、血栓を防ぐ健康食としても根強い人気がある。
 しかし国内に流通するヒジキの90%が韓国、中国からの輸入。このままでは天然ヒジキのおいしさが失われてしまう、何とかせんといけん。呉市近海の安芸灘で取れた新鮮なヒジキの販路開拓、新製品開発に奮闘する松島やの北尾悦子さん(69)は、
「一時はスーパーに卸していたこともあったが、この20年は仕入れがままならない状況になり、やめると決意。ところが、どうしても安芸灘のヒジキでなくてはと多くの声を受け、心を奮い立たせた」
 呉市豊浜町の豊島出身で、実家はタイ一本釣りの漁師。20年ほど前から毎年、冬場になると母親から乾燥ヒジキをもらい受け、友人や知人にお裾分けしていた。そのうちあちこちから「売ってほしい」という声が出始めた。そもそも売る気はなかったが、友人から背中を押されて、飛び込み営業した先が、道の駅がある舞ロードIC千代田。海の幸だから山あいの千代田で扱ってもらおうという単純な発想だったが、たまたま知人の農家が栽培する豊島レモンを扱っていた縁もあり、とんとん拍子で話が運んだ。
 その後、その道の駅が広島市内スーパーへ移動販売するときもヒジキを扱ってくれるようになり、商いとして軌道に乗り始めた。
 近年、瀬戸内海の海水温のせいか、漁獲量は年々減り、捕れる魚の種類も変わりつつあるという。北尾さんは3年前、ヒジキの不作に見舞われた。相手は自然。なすすべなく受け入れるほかないが、今年もそろそろヒジキの収穫時期を迎える。寒の季節の12月から2月にかけ、身が引き締まり、色や食感も格段に良くなるという。
 品質の良さを認めてくれる人が多いのだろう。着々と販路を広げている。現在は特定の漁師から限られた収穫量で商品化。県が推進する「ひろしま里山チーム」の500登録者・約50団体の産品を集め、そごう広島店である〝さとやまマルシェ〟にも出品を重ねる。4年前には実家の屋号〝松島や〟ブランドでパッケージを刷新。売れ行きは2.5倍に急伸した。百貨店の訴求力もさることながら品質に加え、デザインの大切さも学んだ。
 湯崎英彦知事は、
「里山、里海には四季折々の自然が織りなす豊かな恵みや伝統文化などの地域の魅力があふれている。ぜひその魅力に触れてほしい」
 希少な天然ものヒジキを昔ながらの鉄窯製法でゆで上げた後、天日干しで磯の香り豊かに仕上げる。乾燥ヒジキのほか、炊き込みご飯のもとに続き、せんべいも商品化。OEM先も開拓した。今冬、そごう広島店から初めてギフト展開に乗り出す。
「乾燥ヒジキをつくる工程で出る、細かな芽を何とか生かしたいと作ったのが炊き込みご飯のもと。さらに細かなヒジキも使い切りたいと考えたのがせんべい。食の豊かさは心の豊かさと信じています」
 原材料の量に限りがあるから商品アイテムを増やしヒジキとの接点を広げ、販路を広げる。「安芸灘の誇り」があるから先へ、先へ進む。

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