やっぱり新米はうまい。一時は店頭からコメが消え、政府の備蓄米を争奪する現象さえ呈した令和のコメ騒動はいま、ようやく落ち着きを取り戻してきた。だが、コメは増産か、減産か、主食は大丈夫かと不安は拭えない。
2024度の日本の食料自給率はカロリーベースで38%にとどまる。東証グロース市場に上場する医療関連情報サービスのデータホライゾン(西区草津新町)を創業した内海良夫さん(78)は、かねて食料安全保障の観点から輸入に依存する現状に危機感を募らせていた。
もっか「(社)若者米作り推進協会」の設立準備を進めている。狙いは、耕作放棄地が増える水稲栽培へ若者の参入を促し、担い手を育てるビジネスモデル構想を描く。
「実は数年前、コメ増産につながればと思い立ち、輸出も念頭に入れてカップヌードルのような世界に通用する〝即席むすび〟をメーカーと数種類ほど試作した。しかし、うまくいかなかった。それではと100ヘクタールほどの水田を確保して自らコメ作りを手掛けようと情報収集したが、毎年1万数千ヘクタールもの水田が消えていく現実にぶつかり断念した」
と明かした。
企業経営者として社会課題の解決を事業目的に据えてきた。データホライゾンでは呉市モデルともいわれる重症化予防事業を起点に、医療保険者が担う効率・効果的な保健事業・データヘルスを確立し、国の事業へと促した。
世界情勢が緊迫しようと、コメさえ自給できれば命をつなぐことができる。内海さん個人で発案した若者米作り推進協は次第に賛同者が集まっている。「国を動かす心意気で現状に風穴を開けたい」と志は高い。
ビジネスモデルは、農業高校の新卒者らに水稲栽培の研修を受けてもらい、会社勤め並みの年収を2年間支給。その間に農業経営者として自立を促す。その原資は個人で賄う予定。水田は各地域の農地中間管理機構(農地バンク)の仲介で原則、賃借する。何よりも若い人が水稲栽培を希望し、進路にコメ作りを選びたくなる土壌を用意する構え。
八十八の手間がかかると言われるコメ作りだが、いまやロボット農機が登場。国策としてスマート農業が導入され始めた。内海さんは第一人者の北海道大教授や先進自治体の岩見沢市長らを訪問し、自らが果たすべき役割が次第に明確になってきたという。
広島県も重労働の追肥作業にドローンを活用し、成果を上げる。しかし広大な農地で生産性の高い北海道とは異なり、広島は中山間地が7割を占める。専業農家の損益分岐点の水田面積は7〜8ヘクタール。小規模では農機具や肥料などのコストに見合う収益を確保できない。もうかるコメ作りと程遠く、新規参入を阻む。既にコメ作り農家の平均年齢は70歳を超える。ここ数年が水田継承のラストチャンス。
9月9日、農林水産省は10年後に担い手不在の農地を都道府県別に初めて集計。拡大する耕作放棄地は西日本に多く、広島県は7割近い。北海道でさえ水稲の新規就農は昨年、わずか5人だった。
古事記や日本書紀に日本の美称に「豊葦原之瑞穂国」とある。葦がしげり、稲穂がみずみずしく育つ豊かな国という。その瑞穂の国の水田を無くしてはならない。決してコメ作りを他人事で済ませてはならない。いまや一人一人の覚悟が求められていると内海さん。まだ間に合う。