広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2019年3月28日号
遠隔診断を世界へ

マイナス28度にもなる極寒の1月。病理センター(中区八丁堀)代表で、ひろしま病理診断クリニック院長を務める井内康輝さん(70)はモンゴルの首都ウランバートルに降り立った。国際協力機構(JICA)の「草の根技術協力事業」に採択されたモンゴルへの医療支援事業を広島県から受託し、大気汚染が深刻なウランバートルで「呼吸器疾患の遠隔診断システム」の導入に取り組んでおり、今年で2年目になる。ICT(情報通信技術)を使ってモンゴルの専門医を3カ年計画で育成し、現地の医療機関などで活躍してもらう狙いだ。
 今年も5日間の日程で10月に放射線診断、11月に病理診断の各チームを構成する医師・技師を広島に招く。毎年、現地での事前講習と試験を実施。放射線科は100人から19人、病理は30人から13人を選んで受け入れる。それぞれ5人の日本の専門医が短期集中で病変を早期発見する診断技術を指導し、母国で広めてもらう。渡航や宿泊費ほか、昨年輸出した病理標本のスキャン装置などに約5000万円(3年)の資金が提供される。 
 同事業は技術習得だけではなく、モンゴル政府や国立病院、国立病理センター、労働安全センター、地元の病院などをネットワーク化し、井内さんが理事長を務めるNPO総合遠隔医療支援機構を通じて放射線と病理の診断に対する教育指導から実稼働後のバックアップ体制まで一貫して取り組む。
「早期診断、早期治療をモンゴルで普及させていくことが一番の狙い。まずは患者のデータベースを作成。病変の放射線画像や病理標本画像をデジタル化してクラウド上にストレージ(記憶)し、必要な時にアクセスできる仕組みを構築。1月にスキャン装置の設置を終え、3月の最終週からコンサルテーション(専門医による診断の相談)をスタート。現地の医療機関に自力で診断する力を身につけてもらうとともに、関係機関で扱う患者情報を一元化する支援も進めていきたい」
 広島大学医学部の時代に内科医を志望したが、大学院博士課程で4年間学んだ後、担当教授の勧めで病理専門の道へ。32歳で3カ月、35歳から米ニューヨークのセント・バーナバス・メディカルセンターなどで1年、研修医として勤務。日本人が一人もいない中、多国籍の病理医と共に働きながら多くを学んだ。若い時の国際経験が視野を広め、後進国へ医療技術を伝えようという志につながったのだろう。これまでにイラン、ベトナム、カンボジアへ同様な支援を行ってきた。
「モンゴルは石炭や銅、モリブデンなどの資源産出国で、現場で働く人の職業性塵肺症対策が急務。人口300万人の半数がウランバートルに住み、しかも5つの火力発電所が立地する上、大量の石綿が防寒に使われ、呼吸器疾患が多い。日本が経験済みの大気汚染対策も含め、さまざまな課題解決に対処できる人材教育こそ重要だと思う」
 病理医の不足する過疎地に住む人も等しく、高精度で迅速な診断を受けることができるようにと2012年3月にNPO法人を設立し、遠隔病理診断システムの普及に乗り出した。古希を迎え、その思いは世界をめぐり、わがライフワークにいそしむ。

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