広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2019年5月23日号
チャンスをつかむ

産地限定の国産ニンジンを使い、自然な甘みと酸味で爽やかな味わいの「マイ・フローラ」。野村乳業が開発に成功した「植物乳酸菌飲料」だ。2月から本格化させた販売を後押しするように、第27回中国地域ニュービジネス大賞(中国経済産業局長賞)に、同社の「プロバイオティクス発酵飲料の国内事業化と海外展開」が受賞した。
 腸内フローラのバランスを改善する、プロバイオティクス発酵飲料は、特定の乳酸菌やビフィズス菌を爆発的に増殖させる発酵技術(特許)によって開発に成功し、2013年に発売。国内展開する植物乳酸菌飲料のほか、既に米国、韓国、中国の食品メーカーに微生物増殖剤を原材料素材として販売している。従来の〝乳業〟と一線を画す市場に挑むが、ここに至るまで厳しい道のりがあった。
 酪農で1897年に創業。野村光男社長の祖父、郁造氏が現在地の安芸郡府中町で牧場を始めたが、周辺の宅地化で乳業を県山間部へ。しかし牛乳の価格競争が激化。1970年代以降、経営の軸足をヨーグルトなど乳加工製品に移す。社長の甥で、開発責任者の野村和弘さんは、
「健康志向のブームに乗り、乳加工製品はつくれば売れる時代がしばらく続いた。生産ラインや冷蔵庫も新設し、増産。売る心配はなかったが、バブル崩壊でデフレスパイラルに陥り、価格競争から逃れることができなくなった。小売店の棚替えに合わせて新商品を売り出す繰り返し。開発〜生産に疲弊し、次第に売り上げも減少。個性的な製品を持たない、価格でしか訴求できない苦しさがその後の教訓になり、他社製品との差別化をどうすればよいのか、次代への踏み台になった」
 試行錯誤を重ねる中、広島県の食品工業技術センターが事務局を務める、産学官の食品機能開発研究会に参加。2004年に転機のチャンスとなる出会いが訪れた。広島大学大学院(薬学分野)の杉山政則名誉教授が見いだした植物乳酸菌の機能に懸け、06年に植物乳酸菌のヨーグルト開発に成功。差別化へ光が差したものの、当時、機能性食品という言葉が普及していなかったためか、期待ほどの成果を挙げることができなかった。そのうち特売品のイメージが払拭できなかった牛乳は07年、次いで東日本大震災直前の11年2月、ヨーグルト製造から完全撤退。売り上げは激減した。経営は苦しく、このままでは危ない。その危機感と葛藤しながら、製品化したのが植物乳酸菌飲料だった。開発段階で一切の妥協を許さない杉山教授に引っ張られ、差別化に確信の持てる新製品開発にこぎ着けた。
 数年計画で事業を見直し、次第に技術が評価されるように。08年に文部科学大臣表彰科学技術賞と中小企業優秀新技術新製品賞などを受賞。自社ブランドに先立ち、大手通販会社に採用されて年々売り上げを伸ばしている。業績は上向きに転じたが、かつての教訓を踏まえ、経営方針とブランディングを根底から見直す作業を進めた。
「自信を持って商品説明できることが心強い。次の製品へつなげ、息長く愛されるブランドに育てたい」
 機能性表示食品の取得を目指し、年内にも臨床試験に入る予定という。

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