広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2019年7月25日号
危機感を持つ勇気

「いつの間にか、おごりが潜んでいたように思う」
 国内トップの宝飾ブランド「4℃」を擁するエフ・ディ・シィ・プロダクツや、アパレル事業のアスティグループ(西区商工センター)の持ち株会社である4℃ホールディングス(東京)の木村祭氏会長は、
「2016年度から4℃既存店売り上げは1年以上前年割れが続いていたが、今年に入り、ようやく水平飛行に乗せることができた。このたびの危機感をバネに、4℃ブランドの再構築を決断。革新に挑戦する創業精神の原点に立ち返り、9月から姉妹ブランドのカナル4℃のリブランディングをスタートさせる」
 永続的なブランドを目指しグループ全体の経営改革に踏み出す構えだ。
 4℃は低迷するジュエリー小売市場で、ターゲットとチャネルを見極めた販売戦略が見事に当たり、独り勝ちの様相を呈していた。4℃HDはリーマンショック後の09年から9期連続増益、18年2月期で純利益は6期連続で過去最高を更新。姉妹ブランドのカナル4℃や4℃ブライダルは出店すれば黒字になり、いつしかこのままやればいいという空気が充満。一方で、数年前から市場、消費者の反応などに、これまでになかった微妙な違和感が生じ、「このままで大丈夫か」という危機感も抱いたが、
「好調な業績におごり、一番肝心な消費者の好みの変化や市場情報を見落としていたように思う。これを教訓とし、根本からブランド戦略の見直しに着手。外部から人材を招いたほか、本質的な商品開発や販売態勢などを刷新し、ようやくグループ全体に活気がよみがえってきた」
 見直しによっていくつか課題が浮上。4℃は顧客の50%を男性が占め、男性が女性に贈るギフト商品として定着。しかし実際に身に着けるのは女性。ギフト需要期のクリスマスの店頭では効率よく売りさばくことに振り回され、本来なら顧客の住所や名前などを伺って、一人一人への丁寧な接客を行う基本を怠っていたのではないか。大幅な予算を組んでいたにもかかわらず宣伝広告も手薄になっていた。結果として16年のクリスマス商戦は振るわず、17年2月期決算は5期連続増収から一転、減収になったが、コスト削減で過去最高益を計上。こうしたうわべの数字に惑わされ、経営全般に打つべき手が緩んでいたとほぞをかむ。
 4℃は25〜35歳のキャリア層がターゲットだが、カナル4℃は18〜25歳を対象に駅ビルやファッションビルで約50店を展開。年間50億円を売り上げるブランドに成長したものの、数年前から4℃と間違える消費者が増え、ブランドの境界線があいまいになっていた。こうした点検を行った結果、4℃ブランドを成長させるためのリブランディングに踏み切る絶好の契機になったのだろう。カナル4℃はファッションジュエリーのセレクトショップへの転換を推し進める。
 19年2月期連結売上高は3期連続減の471億円、経常利益は10%減の68億円。今期は各ブランドの個性や販売戦略を明確化し、4℃ブランドの再構築へ経営資源を投入する。売上高、利益共にプラスに転じる見通しだが、決して油断はない。

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