広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2019年9月5日号
感動を呼ぶ

当初、大方の関係者は半信半疑、むしろ悲観的だった。海や山のほか、何にもないところへ修学旅行で訪れるはずがない。だが、その常識を打ち破り、広島、山口県での体験型修学旅行の受け入れが2019年度で110校・1万6094人(5月現在、予約含む)を予定。過去最高となる見通しだ。
 長年にわたる粘り強い誘致活動と地域受け入れ体制の取り組みが重なり、当初予想を上回る数字をはじき出した。広島商工会議所が旗を振り、00年7月に両県内の9市6町の行政や商議所、商工会などでつくる広島湾ベイエリア・海生都市圏研究協議会(事務局・広島商議所)が発足。観光ルート開発などを経て07年から体験型修学旅行の誘致活動を始めた。初年度受け入れ人数はわずか35人。その後も商議所、自治体職員らが根気よく首都圏や中部、関西の旅行会社などへ営業展開。ようやく数年後から手応えがあり、西日本豪雨の影響もあってか18年度に前年割れとなったが、ぐんぐん受け入れ人数を伸ばしてきた。
 8月下旬に周防大島や大崎上島町、江田島市など受け入れ地の7地域協議会の関係者ら総勢21人で滞在型観光の先進地、長崎県松浦市を視察。「松浦党ほんなもん体験」を推進する(社)まつうら党交流公社と13地区が広域連携組織をつくり、年間3万人を受け入れる。研究協議会の運営委員長を務める中村成朗さん(中村角会長)は、
「松浦の成功要因は、地元の熱意に尽きると思う。ありのままの自然の力、漁業などを営む人たちのたくましさが共鳴し、都会では体験できない感動を呼ぶのでしょう。大阪から修学旅行で訪れた生徒が卒業後漁師の後継ぎになり、地元で結婚し暮らしている事例も聞いた。一方で、当協議会の大崎上島からうれしい報告が届いた。不登校だった中学生が今春、島を訪れたのを機に登校してくれるようになったと保護者から連絡があったという。魚の三枚おろしを自宅の台所で披露し、保護者を驚かす子も少なくない。1泊2日の短い期間だが、家庭的で和やかな生活に触れ、自然に心が開くのではないでしょうか。別れるときには互いの目に光るものがあります。私も最近は涙もろく、おかげで感動をもらっています」
 長崎県への視察は2回目になる。最初は体験型修学旅行の誘致活動を始める前の、04年に平戸市を視察し、さまざまな示唆を受けたという。
 こうした事前準備に加え、関係者の冷たい態度などにひるむことなく、粘り強く、毎年こつこつと活動を継続してきた成果といえよう。コーディネート機能やインストラクター研修、旅行会社へのプロモーション、安全対策、地域協議会などによるきめこまかな受け入れ体制を構築。生徒や先生から保護者へと支持が広がり、定番化した学校があるほか、先生の転勤で新たに始める学校も増えてきた。その一方で、民泊家庭の高齢化などにより、受け入れ家庭の確保が大きな課題に。受け入れ地域を広げ、さらにネットワーク機能を効果的に運用する方策などを探る。
「今の仕組みや受け入れ体制を充実させることはあっても品質を落としてはならない。数字だけで計れない、感動を大切に運用していきたい」

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