広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2019年9月19日号
ものづくりの魂

世界に先駆け、先進的なアルミ関連設備を実用化し、自動車部品生産用のアルミ溶解設備分野で国内トップシェアを誇る。工業炉メーカーの三建産業(安佐南区)は世界初の技術とか、日本一の製品とか、かずかずの技術革新を成し遂げながら困難を克服し、8月に70周年を迎えた。国内の自動車・部品メーカーへアルミ関連設備を納入し、大型アルミ溶解炉のシェアは50%以上。街を走る車の半分は同社の技術、製品が関わる。
 今日までの歩みは戦後の産業史とも重なる。大量生産、省力化、省資源などと産業の主題が移り、それぞれの時代が求める技術革新へ敢然と挑んだ。苦難と戦った体験を幾層に重ねてオンリーワン技術をつかみ取り、業界に確たる地歩を築く。自動車や造船などのものづくり産業が集積する広島に拠点を構えた幸運もあったろうが、何より「勇気と知恵」で立ち向かった人間ドラマといえよう。
 三井物産を退職後、1949年に創業者の万代淑郎さんと、三浦四郎さんの二人が豊田郡安芸津町(現東広島市)に三建産業を設立。公共建物などに多く使われる赤レンガを販売していた。これが源流となり、日本で初めてセラミックファイバーを使った大型焼鈍炉、国内市場を席巻したタワー型急速アルミ溶解炉「サンケンメルタワー」のほか、アルミ鋳造の機械加工時に発生する切粉を再利用するために開発した「キリコメルター」などへ拡大発展していく流れにつながるとは、誰もが想像さえできなかった。
 レンガを納入していた三菱造船広島造船所(現三菱重工広島製作所)の鋳造工場担当者から「炉をやれよ」というアドバイスが発端になった。炉の技術、知識などない。数少ない専門書を読みあさり、徐々に工業炉に接近。重い扉をこじ開けた。その後も得意先との二人三脚。とても無理だと思える注文にひるむことなく、ときには厳しいクレーム対応に鍛えられながら革新的技術を身に付けていった。
 主力のアルミ溶解炉は車の軽量化、工場のFA化ニーズに沿って、どんどん注文が入った。当時のアルミ素材は鍋や釜など家庭用品に使われるものが多く、車の工業部品として大量に使用することは想定されていなかった。反射炉しかなく、大量生産に向かないと誰もが考えていた。しかし車の燃費削減に向けた開発競争が始まり、軽量化を追求する国内メーカーはこれまで鉄で製造していたエンジン部品やホイールなどにアルミ素材を使い始め、アルミ溶解炉や保持炉、熱処理炉の需要が一気に拡大。そんな時代に開発されたメルタワーは「世界初の挑戦」を見事に実現し、飛躍的に生産効率を高めた。車が軽いと燃費が良くなるという時代の要請だった。
 FA化のニーズに応えてアルミ原材料の連続自動投入用の搬送機械も設計するようになり、材料投入から溶湯まで一元的にできるようにした。メルタワーの評判は瞬く間に世界へ広がり韓国、イギリス、スペイン、ドイツ、アメリカなどから技術供与、提携のオファーが次々舞い込んだ。
 創業来、顧客と二人三脚で問題を解決し、技術開発に挑戦する姿勢を貫いてきた。当時、首都圏と広島の間が時間的に遠く離れていたことも幸いしたと言う。−次号へ。

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