広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2019年10月3日号
人に会う勇気

テレビ観戦していると、元カープ選手でプロ野球解説者の前田智徳さんが「そりゃあプロは厳しい、非常に厳しいですよ」と独り言のようにぽつり。決して妥協を許さなかったといわれる現役時代の経験から出た言葉だろうが、心技体への重圧が非常なものだったことをうかがわせた。
 ファンにとって、特にチャンスで見逃し三振ほどがっかりさせられるものはない。バットを振る勇気もないのかと憤慨する。ビールを片手に観戦する方はのんきだが、選手にとって恐怖や不安にものおじせず立ち向かう気力こそ、一流への分水嶺(れい)なのだろう。
 工業炉メーカーの三建産業(安佐南区)に、「勇気の12講」がある。創業者の万代淑郎さん(故人)はいつも穏やかで、気さくに取材に応じていただいた。その頃、同社の社内報に一年間、勇気とはいかなるものか、を主題にメッセージを連載されており、その一部を要約すると、
「人に会う勇気」人と人の間には、当然のことながら年齢や教養、社会的地位などのポテンシャルがある。ポテンシャルの高い人と会うのは大なり小なり勇気がいる。しかし会えば、会うほど差が縮まることは確かで、実に不思議なものだ。気心が知れるというのか、二人の間に共感というようなものが生まれてくる。
 孤独もいいものだけれど、実は、この共感というものが人の心を豊かにし、生活の支えになるものだと思う。もっと打算的というか、現実的に考えてみると、ポテンシャルの高い人に会うことは知識を得たり、教えられたり、ヒントを与えられたり、つまり自分を利することがいかに多いことか。
 もっと人に会う勇気を出してもらいたいのは、社内外を問わず、できるだけポテンシャルの高い人に接してもらいたい。もう一つは、会いたくない人に、積極的に会う勇気を出してもらいたいことだ。クレームで叱られることがわかっている人や、売掛回収がもつれにもつれて会う人には勇気がいる。何はさておいてもまず会うことだ。
「断る勇気」断り切れなかったという場合を考えてみると二つあるように思う。情にほだされているという場合、もう一つは、欲と二人連れの場合だろう。もともと欲しいとか、もうかるからという心の傾斜があるから、理性では断らねばならぬ条件下でも、ついつい断れない。そのために金銭的に恐ろしい目に遭うこともしばしば。特に判を一つ押すということを断り切れなくて破産倒産の憂き目ということは、何としても最初の第一歩で勇気不足といわれても仕方がない。欲に幻惑されず、情に流されず、勇気と理性が必要だ。片意地と思われるほどの強さで断らねばならぬ場合だってある。
 以降の講を並べると、習慣をつくる勇気と破る勇気、先にいやなことを片付ける勇気、新しいことをやろうとする勇気、挫折感に立ち向かう勇気、進んで発言する勇気、可能性に挑む勇気、妥協をしない勇気、開拓する勇気、決断する勇気、ものおじせずに立ち向かう勇気−の12講。
 勇気の言葉は平易だが、いざ実践するとなるとそう簡単ではない。さ細なこともおろそかにすることがなく、周囲に気配りをみせた万代さんの生き方そのものに思える。

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