広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

コラム― COLUMN ―

2019年12月12日号
融資の裏打ち

新幹線がでっかい希望を運んできた。広島県内で唯一、新幹線車両に使われるアルミ部品を加工、納入する景山産業(南区、景山善美社長)は受注増に対応し、西区に新工場の用地約1800平方メートルと平屋の既存工場を購入した。同社の年商は約6億円で、買収額はほぼ同額の6億円弱。これを広島市信用組合が単独で資金需要に応えた。
 典型的な町工場にとって大きな額になり、さらにレーザー加工機全自動ラインの最新鋭設備導入などに投資額も膨らむ。大きな決断だった。同信組の山本明弘理事長は、
「創業来60年近くをかけ、こつこつと信用、加工技術を重ね、今、大きなチャンスをつかみ取ろうとされている。ひたむきな経営陣の取り組みは何事にも代え難い。大いに成長性があると判断した」
 両経営者の呼吸がぴたり。これにはむろん、大きな裏打ちがあった。
 同社は1963年、創業者の景山昭二会長(92)が精密板金製造を創業。当時の国鉄(現JR)から取り付け金物の製造をやってみないかという誘いが発端だった。やがて信号保安設備関連の機器類も製造し、業容を伸ばす。そうして90年代半ばに大きな転機が訪れた。高速道路に設置するアルミ加工のシート式情報板を製作しないかと取引先の小糸工業(現コイト電工)から依頼があり、ためらうことなく手を上げた。創業者の次男、拓(ひろむ)専務(56)は「このときの経験がその後の大きな糧になった」と振り返る。
 まずは金型メーカーを探すことからスタート。西日本を走り回った。必死だった。発注者が求める厳格な品質、コスト、納期に加え、出来栄えの美しさなどの要求は厳しさを極めた。撤退しようかという思いもよぎったが、一層チャレンジ精神を鼓舞。火の玉になった。
「ものづくりの魂、技術を徹底的に鍛えられた。試練を乗り超えたことが自信になり、現場で製品を手にしたときの感動があるから続けることができた。従業員みんなに喜びが広がり共感が生まれた」
 これが原動力になったのだろう。13年前に新幹線向けの受注が飛び込んできた。日立製作所笠戸事業所に納入する車体の内装部材、ドアや床周り、先頭のライト周辺などのアルミ部品の総数は1万種類に及ぶ。次々に最新鋭設備を導入したことも品質向上、生産性を飛躍的に高め、加工改善の提案やコスト削減などに競争力を磨いた。従業員採用にも特有の考え方がある。異分野で働いていた固定概念の少ない人の方が、素直に技術を身に付けてくれるという。
 今後、新型の新幹線が量産体制に入り、海外からの受注も見込まれている。台風で浸水した北陸新幹線車両を新たに造る方針もある。さらに同社のアルミ加工技術が評価されて医療器具関連ほか、予想外の分野からも引き合いが入る。来年6月の新工場稼働に備え、従業員を10人増員し総勢40人に引き上げる。数年後には売り上げ10億円を見込む。これまでに資金調達で苦労したときも同信組に支えてもらった記憶がある。しかしそれだけでは融資の裏打ちにはならない。融資する方と受ける方に、ぶれることなく地道に一本道を歩いてきたという、数字に表れない気脈が通じているのだろう。

一覧に戻る | HOME