その時々にやるべきことをやり遂げる。東京大学法学部を卒業後、通産官僚、実業家などを経て2007年に広島県知事選に出馬し初当選。現在3期目の湯崎英彦知事の信念である。広島テレビの番組を本にした「Dearボス〜トップの秘密のぞき見バラエティ〜」(南々社発行)のイントロで、この言葉について湯崎知事が一文を寄せている。そして本に登場する11社のトップに共通して創業期や転機などの時々に「やり遂げた」という逸話が、興味深い。一部を紹介したい。
現在、「すし辰」などの回転寿司8店舗のほか、焼き肉店2店舗、和食店「鄙(ひな)の料亭地御前(じごぜん)」や、母体となった鮮魚店を県内で展開する鮮コーポレーションの西田昌史代表取締役。庄原市で古くから営む家業の鮮魚店に入り24、25歳の頃。小さな店を守り、田舎の商店街で生きていく、これが自分の人生かと思うと、たまらない寂しさと絶望感を感じた。しかし転機が訪れた。27歳の時。地元にできたショッピングセンターに出した店を任される。初めは散々だったが、知人の助けやアイデアを生かした売り方で驚くほど繁盛。商売の面白さを知り、全てが変わったという。
31歳。挫折を味わった。ファミリーレストランをつくろうと思いつき、建設に着手。しかし肝心の人がいない、レストラン運営の知識もない。突然耳が聞こえなくなったり涙が出たり。中止を決断。2000万円の借金を負った。この時、自分に経営の知識が何もないことを痛感し、勉強しなければと思った。うまく切り抜けようと悪あがきをしないこと。苦しいときこそ明るく振り舞うこと。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」という格言が、それ以降の人生の道標(しるべ)になった。
それからも失敗はあった。ただ成長するにしたがってスタッフも成長し、会社の体力もついてくるから失敗しても何とか切り抜けることができてきたというのが実感です。
日本一の木材会社で、2500人の従業員を擁する中国木材の堀川智子社長。戸建て住宅用構造材の国内シェア30%以上を占め、3期連続で1000億円以上を売り上げる。2代目で父親の保幸会長が基盤をつくり、2015年に3代目に就く。父はすごい倹約家で、5人きょうだいの長女である私もよく似ています。使い捨てが嫌いなタイプなんです。メーカーとして1円1円コストダウンして利益を積み上げないといけないというのが今も父の口癖。どうやってムダをなくすかというのが常に頭にありますね。
一方で、業界の常識を破る大胆な投資を次々に断行してきた。物流コストの削減に直結する「一港積み一港降ろし」を実現するため、21億円で工場に専用ふ頭を建設。業界でいち早く乾燥材を商品化。製材の過程で排出される樹皮やオガ粉を燃料に使う「バイオマス発電事業」に乗り出し、森林経営も手掛ける。原材料→製材→乾燥→加工→流通までの一貫体制を全国14カ所の拠点で行い、全国へ製品を供給する。まさに大胆で細心。その時々で革新を重ね、業界をリードする腕力がすごい。
苦境の時はむろん、その時訪れたチャンスをいかにしてつかむか。やるべきことをやり遂げたから知恵も生まれ、運も味方したのだろう。