広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2020年6月4日号
成長戦略を描く

大型ビル建て替えが相次ぐ市内中心部。広島銀行本店をはじめ、損保ジャパン広島ビル、広島アンデルセンなどの旧建物の解体工事を次々に請け負った桑原組(西区己斐本町)が着々と地歩を築き、業界の話題になった。創業来、施工実績は累計1万棟以上に上る。近年は、中区富士見町の再開発関連などの元請け工事も増え、2019年11月期決算で過去最高の売上高26億7000万円を計上。
 2009年7月に就任した4代目の桑原明夫社長は、どん底からの出発だった。リーマンショックのあおりで業績が大きく落ち込み、目先は暗闇。しかし負けじ魂はすさまじく、明けても暮れても拡大発展の戦略を練った。矢継ぎ早に新基軸を打ち出し、経営改革を断行。積極果敢な取り組みが成果を上げ、わずか10年で業績を4倍以上に引き上げた、その腕力がすごい。
 1958年の創業。ゼネコンの下請け工事が主力だったが、建設業界全体が苦しんだリーマンショックを契機に元請け工事へ照準を合わせた。経営理念に「過去の歩みを尊重し、常に新しい価値を創造し続ける」と掲げる。従業員評価制度や資格制度の導入、営業組織の再構築などの抜本的な改革へ踏み出した。桑原社長は、
「会社が生まれ変わらなければ立ちいかなくなる危機感があった。リストラはしない。いまを踏ん張り、戦力強化のために社員教育を徹底。数値目標を掲げ、将来の姿を描くことができる戦闘能力を備えた組織をつくることが、その頃の一番の目標だった」
 反発もあったが、社員一人一人と面談を重ねた。強みとする工事実績のほか、すべての部門を洗い出し、メスを入れ、5年で背筋の通った骨格をつくった。第二創業と位置付け、先々に備えた。
 かつて売り上げの大半を占めた下請け工事は現在65%程度になり、元請け工事とその他で35%に。解体工事を軸に土壌汚染・アスベストなどの環境対策工事を施し、土地活用まで行う「ワンストップ土地更地化サービス」事業を確立。競争力を高めた。
 今年で新卒採用は7年目。幹部候補生を育てようと昨年から大学生、今年から大学院生の採用も始めた。5年前から大手ゼネコン協力会社の百数社でつくる「若手同期会」に合同研修会を呼び掛けた。スマホがコミュニケーション手段になり自己表現が苦手な若手の不安を払拭しようと、ひるまからビアホールで〝社長塾〟を無礼講で開き、桑原社長の失敗談にどっと歓声が上がった。
「好奇心と探求心を持ち、自分の成長を楽しめる人材が当社の宝。自己成長の要求が満たされてこそ、継続する力となる。社員の成長が会社の成長の証。夢や戦略を描くことができ、覚悟をもって決断、実行できるようになれば、一騎当千の力になる」
 無印良品の家FCで家づくり分野に乗り出し、早くも3年で全国38加盟店中、トップクラスの実績を上げた。まちづくりを見据えたリノベーション事業も展開。4月に東京に拠点を設け、機能材フィルムを扱うスリーエムジャパン(東京)や家具インテリア企画販売のニトリ(同)と組んで首都圏開拓に乗り出す。成長戦略の一番に、社員教育を定めた目に狂いはない。

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