広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

コラム― COLUMN ―

2020年8月20日号
AIとの付き合い方

カープ中継のテレビ観戦ですっかり監督気分。大ピンチでの投手交代、一打逆転のチャンスで代打起用などと気がもめる。わが采配がズバリ当たれば、よっしゃ。リリーフが打ち込まれると、ご機嫌ななめ。なかなか思うように試合は運ばない。
 左打者に左の投手、得点圏にランナーがいるとき、フルカウントで打者を追い詰めたときなどの、投手と打者の心理戦も繰り広げられる。どの球種を、どこに投げるのか。今年のプロ野球テレビ中継からAI捕手が画面に登場。過去16年間の約400万投球のデータを分析し、次の一球を要求する。実際のピッチングと異なることもあるが、さらに監督気分が刺激される。
 テーマはプロ野球。広島県と東京のシグネイトが運営するオープン形式AI人材開発プラットホーム「ひろしまクエスト」の第1回データ分析コンペティションの課題は、2017年の全プロ野球公式戦の全投手の25万投球データを基に、18年と19年の球種とコースを予測する。4月28日〜7月28日の参加期間に総投稿件数は1万479件に上り、オンラインで全国から2038人が参加した。さすがプロ野球で、想定をはるかに超える関心を集めた。
 球種に1291人・7454件、コースに635人・3004件。分析だけでなくリアルなデータを駆使し〝みんなで広島東洋カープを日本一にしよう!〟という命題に、112人が21件のアイデアを投稿した。意思決定をサポートするデータサイエンティストの腕の見せどころと言える。シグネイトが審査し、9月に優秀者を表彰する。
 国内唯一のAI開発プラットホームを運営するシグネイトは、例えば〝賃貸物件の家賃推定〟や〝自動車環境性能の改善〟、〝スポーツのチケット価格の最適化〟などのテーマでアイデアを募り、その投稿数は数百〜数千件が平均的という。商工労働局イノベーション推進チームの尾上正幸主任は、
「コンペ方式により、データを駆使して地域の課題解決につながる答えを導き出すAI人材を掘り起こし、県内企業などと人材マッチング。産業のイノベーションを推し進める役割を担ってもらいたい。投稿には柔軟なアイデアが幅広く、手応えがあった」
 かつて野村監督のID野球が評判になった。経験や勘に頼らない科学的データを活用し、鍛え抜かれた技術力で熾烈な戦いを繰り広げるリーグ戦を制覇。作戦やプレーの裏側を推理する野球観戦の楽しさに気付かされた。
 産業界にもデジタル化の波が急速に押し寄せる。バーチャルとリアルをどう組み合わせるのか、いかに融合させるのか。同プラットホームはAIやIoT(モノのインターネット)の実証プロジェクト「ひろしまサンドボックス」の一環で、昨年10月にプレスタートした。e−ラーニングコースは企業単位のほか、大学生も多く参加する。イノベーション立県を掲げる広島県はAI人材の育成をはじめ、デジタル技術普及などに体系的な事業を展開。AIに駆逐される業種、業務も想定される。しかし人の技量や心遣いが通用する世の中であってほしい。そのためにもAIを使いこなす人材の確保が急務という。 −次号に続く。

一覧に戻る | HOME