何しろ粘り強い。いつも穏やかだが、相当な負けず嫌いなのだろう。広島商工会議所常議員の中村成朗さん(81)に広島市をはじめ、県西部と山口県東部にまたがる8つの市町から感謝状が贈られた。商議所の過去に例がない。
商議所が主導し、行政エリアを越えて官と民が連携した広域観光の推進組織「広島湾ベイエリア・海生都市圏研究協議会」を2000年発足。当時、商議所の広域交流委員長だった中村さんが協議会運営委員長に就き、7月8日の総会で退任するまでの20年にわたり、広島湾域の都市、島々、山里を巻き込んで観光関連事業に取り組んできた。
重点事業の体験型修学旅行の誘致活動では08年からの累計で545校、8万2713名の生徒を受け入れる。商議所中心のこうした取り組みは全国的にも珍しく、当初には誰もが予想できなかったほどの成果を挙げ、関係者を驚かせた。16年には観光庁長官表彰を受ける。
毎年自ら足を運び、主に首都圏や関西圏の旅行代理店などの関係方面を訪ねて熱心なプロモーション活動を展開。これに触発されるように市町のトップ、事務局も足並みをそろえ、一日に7、8カ所の旅行社を巡る分刻みの過密スケジュールをこなした。これを毎年繰り返した根気がすごい。反響が広がった。
08年に初めて、山口県の周防大島で修学旅行生212名を受け入れる。これを皮切りに翌年からぞくぞくと予約が舞い込むようになり、何と2011年度には関東、中部、関西方面から中・高校を合わせて19校、計3097名を受け入れる。翌年は21校で計4076名。その頃、椎木巧町長は「ものすごいことになりました」と、驚きを隠さなかった。
同町は1947年頃に人口6万5000人を数えたが、いまは2万人を切る。高齢化の進む島に修学旅行生が訪れることなどかつてなく、椎木町長自らプロモーション活動に参加したものの、半信半疑だったのではなかろうか。
「海、山、川の風景だけでなく、自然に根差した漁業、農業があり、何よりも素朴で温かい人情がある。地元には当たり前のことが、都会の子どもらには新鮮な感動になり、貴重な体験になると思う」
中村さんも周防大島での民泊受け入れ説明会で現地に乗り込み、漁業関係者や住民らと車座で語り合った。その後に大崎上島町、江田島市、安芸太田町、北広島町、福山市沼隈・内海町、庄原市、佐伯区湯来町へと広がり、昨年はエリア全体で1万5093名の修学旅行生を受け入れた。経済効果は平均体験料1万3000円として約2億円。そればかりではない。地域住民の生きがいになり、地域に活気があふれた。中村さんは、
「家では料理もしなかった生徒がアジを3枚におろす。感激した母親から民泊先に手紙が届いて互いの感謝、喜びにつながる。そうした話がたくさんあることが、本物体験の一番の成果。うわべだけの対応では通用しない。受け入れ地域が本気になり、本物を伝える決心が大切です」
数年前から今年で退任すると決めていた。コロナ禍で今年の予約は全てキャンセルになり先行きも不透明。しかし再開のときに備え、いまこそ力を蓄えてもらいたい。