広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2021年3月4日号
飛べ、テントウムシ

旬の野菜は格別。採れ立てはなおさら。各地の産直市に作物本来の味を求めて多くの人が押しかける。市内中心に飲食店を展開するインスマート(西区商工センター)は当初、自社の居酒屋やレストラン用に供給するため、農薬を使わない農業に乗り出し、今年4月で9年目に入る。
 東広島市西条町の休耕田を畑に、3年間は2ヘクタールで50品目を作っていたが、現在は5ヘクタールに広げ、大根や茎ブロッコリーなど11品目に絞る。需給バランスなどを考え、3年前から収穫量の約8割をJA広島中央に出荷している。担当の坂田一樹さんは、
「野菜のおいしさを届けたくて露地栽培にこだわった。きれいに均質に作るのは難しくハウスものに比べて見た目は劣るが、圧倒的においしい。しかし店頭で手に取ってもらうには見た目が決め手。そうすると本来のおいしさはなかなか伝わらず、悩ましいところだ。もともと東広島出身で農業は子どもの頃から身近にあった。農作業を手伝うこともあったが、将来自分でやりたいとは少しも思えなかった」
 地元での営農に意欲はわかなかったが、農業を始めた頃に1歳の長男が同じトウモロコシでも見た目のきれいな、買ってきたものは口にしようとしなかったのに、わが家の畑で作ったトウモロコシをむさぼるように食べてくれたことが強く印象に残った。いまは農作業を手伝ってくれる学生らにも好評だ。数年前からはJA産直市「とれたて元気市となりの農家店」に出す野菜の袋にテントウムシをデザインしたシールを貼って出荷。売れ行きは好調で一定層のファンが増えてきたという。
 八本松地域も再開発が進む一方で休耕田が増える。同社に耕作依頼が舞い込むものの現状では人手に余裕がなく引き受けられない。そんな中、県の伝統野菜「下志和地青ナス」を東広島の特産にしようと「あおびー倶楽部」を2018年12月に設立。この品種は、果色が茄子紺という伝統色の名称でもあるナスの色とかけ離れた淡い緑色だが、果肉は柔らかく、あくが少ないのが特徴だ。昨年末に特産物部門で東広島市農林水産ブランド「東広島マイスター」認証を受け、インスマートは生産者部門、サツマイモの紅はるかをあんに使った和菓子「紅はるかの月」は商品部門でそれぞれ認証された。
 青ナスの種子は、(財)広島県森林整備・農業振興財団の農業ジーンバンクから借り受けた。同バンクは現在、県内に現存する作物種子約1万8600点を保存し、伝統野菜の復活を支える基盤として機能している。貸し出しは年間で80〜100件に上る。近年は有機農業を営む農家からの要望が多いという。09年に実施された〝広島お宝野菜〟プロジェクトの選定15品目に青ナスも含まれる。バンクの船越建明さんは、作物の特性を理解し生育に合った地域や栽培が一番大事で、地道にやる努力が欠かせないという。
 坂田さんは土地に合った伝統野菜で打って出ようと、青ナスの栽培を始め、14年に初出荷。仲間に呼び掛け現在、志和や福富、西条の新規参入やUIターンなどの若手7農家が参画し、東広島のブランド化を目指す。
「広島県のナスは青い、と言われるまで産地化したい」
 飛べ、テントウムシ。

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