企業の合併や買収は、専門コンサルタントの提案から交渉が始まる。企業の存廃を懸け、互いが条件を主張。ビジネスの厳しさがあらわになり、すんなりまとまる例はほとんどない。希望する相手に巡り会うか、巡り会ったとして、取引を円滑に進めることができるかはコンサルの腕の見せどころ。M&A専門のクレジオ・パートナーズ(中区紙屋町)は2018年4月に設立以来、3年間にM&Aや事業継承などで100件ほどのコンサルティング契約を受託。かつて広島に例のない、目覚ましい成果を挙げている。
これまで例えば、東広島記念病院などを運営する医療法人社団ヤマナ会(東広島市)はサービス付き高齢者住宅(サ高住)を取得、総合不動産管理業のみどりホールデングス(中区大手町)は山口県の厨房機械・器具販売会社を取得、総合建設業のティーエス・ハマモト(安佐南区)は内装用建材の企画製造販売会社と住宅建築の申請代行会社を取得など。名前は伏すが、中堅から大手まで業種、業態も幅広い。経営危機を乗り切り、飛躍的な発展につながった成功例などが興味深い。
会社を売却したいという事情の多くは後継者の不在。社長の一番の仕事は後継者を育て、なお会社を存続させる使命があると言われるが、中小企業ではなかなかスムーズに運ばない。高齢化や健康問題などで経営から退きたいが、取引先や雇用を守るために、やすやすと会社を閉じることはできない。そうした経営者の切実な思いを受け、事業承継の実現に成功したときの安堵感は計り知れない。同社にとって大きなやりがいなのだろう。
会社を買いたいという理由はさまざま。既存事業の強化や新規市場への参入などが主体で顧客やエリアの拡大、サプライチェーンの効率化によるコスト削減などのシナジー効果を見込むものや、自社の経営資源を補って新分野進出を加速させるケースなど枚挙にいとまがない。
同社の強みは財務。資本を活用したエクイティ・ファイナンス、融資・借入を活用したデット・ファイナンスの両方に専門性を持つ。こうした専門知識はむろんのこと、本音でぶつかることのできる「人間味」が大事という。双方の間で中立公平を貫く。どんなに多くを語ろうと信頼を失うと、相手は耳を貸さなくなる。むろんアドバイザーの責任である。常に緊張感のみなぎる真剣勝負。M&A後も丁寧なフォローを尽くす。次の案件へつながることも多い。土井一真常務は、
「M&Aの相手先が見つかること自体たやすくはない。売り手にとっては一度しかない事業承継。納得のいく選択をしていただくために、複数社から提案してもらえるよう苦心している。企業連携は互いの立場を尊重し、互いの長所を生かすというスタンスの上に成り立つ」
昨年入社した齋藤拓也執行役員(38)は、中国経済産業局時代に創業支援等を手掛けた経験と幅広い視点を持つ。
「M&Aを通じて経営の本質が見えてくることがある。企業活動は奧深く生産、販売、研究開発などで多様性にあふれている。長所を伸ばし、弱点を補うM&Aの手法は、事業発展を促す大きな可能性を秘めていると思う」