広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2021年10月7日号
響き合う絵と音楽

見る絵と、聞く音楽。本質的に相容れないように思えるが、画家のアンリ・マチスは「一枚の絵は統御されたリズムの配置」と語り、晩年、版画集「ジャズ」を発表。ジャズの即興性からインスピレーションを得たという。
 ひろしま美術館は10月24日まで特別展「シダネルとマルタン展」を開く。親しみやすく美しい作品を描いた最後の印象派といわれるアンリ・ル・シダネルと、彼の友人画家で公共建築物の装飾画も多く手掛けたアンリ・マルタンの二人に焦点を当てた特別展は国内初めて。共に19世紀末~20世紀初頭のフランスを中心に活躍した。
 身近な自然や周囲の日常に詩情を見いだし、精霊とおぼしき女性像、農民の働く姿などを、印象派の表現を取り入れた豊かな色彩であらわす。あたたかな日差しやたそがれの薄明かりにつつまれた、穏やかながらも神秘的な感覚を呼び起こす作品群は改めて、日常の大切さを見る人に問い掛けてくる。
 同美術館は2005年から毎月1回、土曜の午後に本館ホールでミュージアム・コンサートを開く。街の喧けんそう騒を離れて、楽器の奏でる響きは心地よい。美術、音楽ファンを魅了するひとときになっているようだ。同特別展に合わせて10月2日、ジャズスタンダードを中心にサックス、ピアノ、ベースによる演奏会を予定していたが、コロナ禍で中止になり、来年以降、改めて開く予定という。
 クラシックを中心に年間プログラムを組む美術館から指名されて、同コンサートに登場するプロサックス奏者の藤井政美さん(54)は、広島を拠点に都内をはじめ全国規模で演奏活動し、CMやレコーデイングなどのほか、ジャズ講座の講師も務める。東京出身で、早稲田大学在学中にジャズ研究会に所属。
「10代の頃、ラジオから流れてくるジャズのとりこになった。親に頼み込み、サックスを手にして無我夢中。即興で吹くとみんなの心が弾む。世界中どこにもジャズファンがおり、利害関係のないところで仲間が増える。ジャズは世界の共通言語。国境を越えて共感が広がる。仲間と語り、直ぐにでも演奏を始めることができる楽しさ、自由な時間は格別です」
 大学を卒業後、サラリーマン生活を送り、転勤で広島に赴任。これが人生の転機になった。すっぱりと退職。コンパクトにまとまった街の雰囲気や気取らない人情、住み心地の良さが好きになり、東京から広島に拠点を移してジャズ奏者のプロの世界に飛び込んだ。こうして築いた人との関係は時がたっても瞬時に響き合うことができると言う。いまはコロナ禍で演奏活動も制約されているが、収束後、久しく会話が途切れている国内外の友人との再会を楽しみに、広島の街の広報活動も務めたいと意欲をにじます。
 産業、経済、そして歴史を土台にして芸術や文化、スポーツなどが街の個性、香りを放つ。広島市内には同美術館ほか県立美術館、現代美術館の3館があり、今季はさておき、カープがある。サンフレッチェ、バスケットの広島ドラゴンフライズのプロスポーツチームのほか、広島交響楽団もある。こうした広島の日常こそ、何より大切ではなかろうか。

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