広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年4月7日号
ECで活路開く

売れないと嘆いても仕方がない。昨秋、広島県の「小売業ECイノベーション実装支援事業」に採択された百貨店の福屋はじめ、県産食品や伝統工芸品などを販売する小売業6社が電子商取引(EC)を活用し、新たな販路開拓に乗り出す。
 補助金(補助率10分の9)は6社で最大計1億8000万円。各社は受け取った補助額の5倍以上の売り上げ増を3年間累計で稼ぎ出す計画だ。6社のトップ、担当者や関係者らが集まり、3月29日に事業報告会が中区紙屋町のイノベーション・ハブ・ひろしまCampsであった。
 福屋はオンライン共創コミュニティーを立ち上げ、顧客を巻き込んだ商品発掘・開発モデル構築を目指す。備後絣(がすり)が伝統産業の福山市で染料を扱う岩瀬商店は、染物技術を生かした羽織風のポンチョを禅宗の体験などができるVRとセットで売り込む。ウェルネス市場が活況な米国シリコンバレーを主ターゲットに海外市場に参入する。
 三原市でワイナリーやレストランを営む瀬戸内醸造所は自社で造ったワインと地元果物の加工品を組み合わせたセット商品の販売を計画。ギフトショップ18店を展開する大進本店は、店舗とECサイトの顧客情報の一元管理で地域サービスを強化するほか、絵本と県産野菜をセットにしたサブスク型ギフトサービスを目指す。
 尾道市で創業し、イカ天瀬戸内れもん味がヒット中のまるか食品は地域の事業者と手を組み、2月に瀬戸内産品のセレクトECサイトを開設。seedsは生カキや小イワシなどを瞬間冷凍し、年中新鮮な味をオン・オフラインで楽しめる取り組みを始めた。既に参加企業の間で連携も始まっているという。
 同支援事業は県が2018年度からスタートした、デジタル技術を利活用して新しいソリューションや価値の創出を目指す実証実験の場「ひろしまサンドボックス」事業の一環。文字通り砂場で思い思いに作ってはならし、試行錯誤することでイノベーションを生み出すエコシステムの構築を目論む。
 EC市場はコロナ禍で物販系に弾みがついた。経済産業省によると20年の市場規模は前年から21.71%伸び12兆2333億円、EC化率は1.32ポイント上がり8.08%。総務省調査でネット人口は19年で総人口の9割に迫り、世帯当たりスマホ保有率は83.4%に上る。今後ECは小売業者にとって未来を開く鍵となるか、対面販売の脅威になるのか。いずれにしろECを避けて通る道はなさそうだ。
 県商工労働局中小・ベンチャー企業支援担当の亀本健介課長は、
「ECの手法を取り入れて新たな視点で構築したビジネスモデルの横展開を見据え、企業規模や事業領域が異なる6社を選んだ。ファンがインフルエンサーの役割を果たし、新たに獲得したファンの囲い込みで好循環のスパイラルを生み出す。広島には魅力のある農水産品、加工食品、伝統工芸品などがいっぱいあり、その可能性を掘り起こし、生かす着眼が大切ではないか。1社のモデルが実証されると産地などの仕入先や取引先に波及していく。国内外へ販路を広げることで県経済にもたらす相乗効果は大きい」

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