広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年6月16日号
生きる喜びに出会う

吟醸酒のふるさと、西条の中心部にある東広島市立美術館は2020年11月に移転オープンし、コロナ禍に配慮しながら順調に滑り出した。酒と美術。緑豊かな田園風景が広がる地方都市の魅力をブレンドし、県内外から多くファンが訪れるという。
 中国地方では最も古い市立美術館で、1979年に八本松町に開館し、移転後は芸術文化の拠点として新たなアートの風を吹き込む。
 今年第1期のコレクション展「あこがれの先に」が始まった。7月24日まで。作家の踏み出す第一歩に〝憧憬(しょうけい)〟があり、尊敬や感動から心を揺さぶられた経験があこがれとなり、表現活動のコアになるという。松田弘館長は、
「土の塊のようなオブジェを創作した備前焼作家で人間国宝の伊勢﨑淳は、詩人で美術評論家の瀧口修造を介し、ピカソやダリと並ぶ巨匠ミロにあこがれてスペインを訪れている。あこがれが創作活動の源につながったようだ」
 同展では作家のあこがれを手繰り、鑑賞に奥行きと広がりを添える。NHKテレビ番組びじゅチューンでおなじみの井上凉の浮世絵作品など43人、76点を展示。作家の心の旅に誘ってくれる。所蔵作品は現在、版画や陶芸、地域ゆかりの作家の1066点。コレクション展は年4回。第2期テーマは〝こども〟と〝平和〟を予定。
「アートは発想の宝庫。インスピレーションを刺激し、知性を更新する力を持つ。日常の中で非日常に出会える美術館は見る人の感性と知性に訴え、発想の更新を促してくれる場所だと思う。テーマによって鑑賞のアプローチの仕方を変えると同じ作品でも見えていなかったものに気付く。知的好奇心のアップデートもできる。アートは特定の人だけのものではなく、われわれの生活の一部。社会、歴史と常に響き合って、いまを生きている私たちと一緒に呼吸している。行き詰まった時や何かを切り拓こうとする時、自らを奮い立たせてくれる大きな源泉になってくれる」
 開館以来、特別展を成功に導く。企画に臨み、デジタル化と高齢化する社会を念頭に置いたという。PIXARのひみつ展(2月11日〜3月27日)はアニメキャラクターの魅力のみならず、3DCGアニメを支えるデジタル技術の粋を体験型による展示手法で楽しく伝え、予想を上回る5万7000人超を動員。中国新聞創刊130周年と中国放送開局70周年記念として広報の後押しも大きかった。
 グランマ・モーゼス展(4月12日〜5月22日)も予想以上の9500人超を動員。70代で絵筆を握り、80歳で初個展を開いた米国の国民的画家の生き方に刺激された方も多かったのではないか。
 同館指定管理者のイズミテクノは県立美術館、びんご運動公園などの公的施設運営の実績を生かし、快適で居心地のよい空間づくりに知恵を絞る。市内の全小学校4年生を対象にバス鑑賞も定例化。同市は子育て世代が多く、広島大学があり、研究機能の拠点もある。そうした関係機関、市民との地域連携から生まれる可能性に期待を寄せる。
「地域の特性を生かしながら国際交流の一役も担い、そして地元に親しまれる美術館を目標に、生きる喜びに出会える場になればうれしい」

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