広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2022年7月28日号
何のために働くのか

自由にやってよい。そう言われて、大いにやりがいを感じるのか、戸惑って途方にくれるだろうか。企業や団体などの組織に所属していると、自主性と協同などをめぐり、どう組織を調和させるのか、何のために仕事をしているかなどと、誰しも素朴な疑問にぶつかったことがあるのではないか。
 出社時間も服装も自由。給与は自分の働き方とその貢献度を自ら評価し、自己申告する。会社の目的を実行するための活動なら自己責任でそれを実行できる。自治体コンサルティングを手掛けるE.S CONSULTING GROUP(中区大手町)は、社員の自己責任と自由に軸足を置くユニークな就業規則、人事評価制度などを導入する。社員の人間性を信じる考え方が根底に流れる。
 同社の佐藤祐太朗(37)CSO(最高戦略責任者)は地元銀行、会計事務所の営業を経て独立。2019年3月に設立以来、3期連続増収を達成し、数人から始めた従業員数は14人に拡大している。
「経営を指揮する立場に立って、改めて組織とは何かと問い直した。私自身は前職で心身のバランスを崩すことがあった。懸命に働いている人が必ずしも幸せそうに見えなかった。経営学的には、1人では実現できない困難な目的を達成しようとするとき、複数の人間の協同で行う。それを組織と言うが、それだけでは不十分。社名のES(従業員満足度)は、みんなが幸せを感じることができる働き方を突き詰めて考え、その目的を実現させる決心を込めた」
 会社理念を実現するための相乗効果を図りつつ、全員が幸せになれる組織はないか。フレデリック・ラルー著「ティール組織」に出会って、大きな示唆を受ける。
「組織は猿の群れのボス猿を頂点とするようなトップダウン型からピラミッド型、達成を重視する実力主義型など、時代とともに変化している。ティール組織は個人の自律と性善説によって統治を放棄するという、より高次元の考えが根底にある」
 同社が存在意義としている「地方自治を駆り立てる」と共鳴し、共感できたと話す。
 しかし日本企業にティール組織のモデルケースはまだ少ない。社員に意見を募り、話し合いながら新しい組織をつくり上げていく方針だ。企業を一つの生命体として捉え、会社は何のために存在しているのか、社員一人一人は何のために働くのかを明確化。会社目的を実現するための活動であれば自ら意思決定して良いとし、上司の承認というプロセスを不要とした。経費や日々の行動などもクラウドアプリで見える化。読書などで得た知識もシェアして集合知を高め、社員の成長と環境変化に素早く対応する組織体を描く。効率化や収益の最大化を図ろうとすると無理が生じる。たとえ成長意欲の低い社員がいても、その価値観も認める風土が大切と言う。
「当社では江田島に移住してキッチンカーを営業しながら地域活性化に取り組んでいる社員がいるが、収益だけを考えたら非効率。会社の目的と社員が大切と考える価値観や生き方などを実現するバランスが大事だ。もし会社に終わりがきたら、社員とその家族から勤めて良かったと思ってもらえる組織にしたい」

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