広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2023年9月14日号
わが道を極める

野村乳業(安芸郡府中町)は8月4日、広島空港に近い三原市の県営広島臨空産業団地内の八天堂ビレッジの隣に新工場「マイ・フローラ プラント」を操業した。臨空産業団地はにぎわいを生む事業展開を進出条件とし、2013年に製造拠点となる主力工場を設けた八天堂は3年後にカフェやショップ、パン作り体験などができる施設をオープン。大人も子供も楽しめる現在のビレッジへと発展させている。
 隣り合わせになった縁から新しい商品が生まれた。図らずも食つながりの両社が軒を並べて意気投合し、とんとん拍子。八天堂が得意のカスタードクリーム、野村乳業が爽やかな酸味のマイ・フローラを持ち寄り、工夫してマッチングした「おなかを育てる とろける くりーむパン」は野村乳業の新工場に併設するカフェ限定販売だが、人気という。
 両社の看板商品は、試行錯誤を重ねた結果として〝選択と集中〟で飛躍を遂げる経営のターニングポイントになり、いまがあるという。
 1897年、本社を置く現在地で創業した野村乳業は牧場を営み、地元で親しまれる牛乳やヨーグルトなど乳製品を市場に送り出してきた。1970年代以降はヨーグルトなど乳加工製品を軸に売れる時代が続くが、量販店などの乳製品売り場はやがて大手乳業メーカーが大量生産、価格競争でしのぎを削る戦場と化した。これに対応し同社は棚替えに合わせて新商品を売り出す繰り返し。開発〜生産に疲弊する苦しい時期へ突入した。野村和弘社長は、
「価格でしか競争できない苦しさは、その後のわが社の生きる道を探る上で大きな教訓となった。どうやって差別化すればよいのか。個性的な魅力を備えた商品開発を追い求め、寝ても覚めても考える日々が続いた」
 意を決し、県の食品工業技術センターが受け皿になった産学官の食品機能開発研究会に飛び込む。2004年、転機となる出会いが訪れた。広島大学大学院(薬学分野)の杉山政則名誉教授が見いだした植物乳酸菌に着眼。牛乳は07年、11年にはヨーグルト製造から完全撤退。売り上げは激減した。危機感と葛藤しながら製品化したのが植物乳酸菌飲料だった。
 一般的にヨーグルトの生産は動物性乳酸菌の働きによるが06年、特定の乳酸菌やビフィズス菌を爆発的に増殖させる発酵技術(特許)によって植物乳酸菌による開発に成功。13年にマイ・フローラ発売にこぎ着ける。ブランディングも見直して腸内環境を改善する〝腸活〟(プロバイオティクス)を打ち出す。
「植物乳酸菌の機能を生かす飲料製品に社運を賭けた。当社の存在価値を見極める大きな決断だった。何よりも乳業から派生した発酵という技術が当社の命。発売来、腸活を実感するリピーターも確実に増えており、健康を実感してもらえる〝乳業〟であり続けようと決意している」
 思い続けたことが実現し、今年7月から機能性表示食品をパッケージに表示した。既に米国、韓国、中国の食品メーカーには原材料素材として微生物増殖剤を販売している。工場に新設したR&Dセンターはこうした海外も含めた共同研究や開発も進める構え。創業126年来、多くの苦難を乗り越えながら新たなスタートラインに立つ。今年創業90周年を迎えた八天堂の選択と集中の戦略を次号で。

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