広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2023年9月28日号
冒険王の挑戦

何気ない母と子の会話からひらめいた。チャンスと捉え長年の家業だった家具販売を諦めて玩具販売へ転換する覚悟を決めた。これを契機に冒険王(安佐北区可部)は25歳以上の男性を主なターゲットにした、新しい形態の大型玩具店「ホビーゾーン」を大型商業施設内へ多店舗展開し、ぐんぐん業績を伸長。
 31期の2023年5月期決算は13.8%増の売上高67億9929万円、3期連続で過去最高を更新した。今期は売上高76億円、経常利益5億円の増収増益を見込んでおり、全国業界で次第に頭角を表してきた。店舗の大型化戦略や売れ筋商品の絞り込みが成果を上げ現在、1都2府29県に66店舗を配す。
 もともとは地元の可部に根差した家具店だった。家族連れの来店客がじっくりと品定めする間、退屈になる子どものために玩具を用意。さぁ帰ろうとしても、夢中になった玩具から手を離してくれないため、売ってほしいと懇願されることがしばしばだったという。堀岡宏至社長(40)の祖父で、創業者の孝之さんには人を喜ばす工夫があった。しかし家具業界はやがて斜陽になり、二代目を継いだ現会長の洋行さんは家具に見切りをつけ、売ってほしいとせがまれた玩具で勝負に出た。それから31年。22年に三代目に就いた宏至さんは、
「顧客の声に耳を澄ませる。創業精神はこの先も変わることのない商いのよりどころ。洋行会長は現場主義を徹底し日夜創意工夫に明け暮れた。人口減など環境変化に目を凝らし店づくり、品ぞろえ、組織づくりにまい進したい」
 家業に打ち込む父、洋行さんはプライドを持てる職場づくりに努め、社員を家族のように愛していた。そうした姿が印象深く、やがて家業を継ぐ決意を促したのだろう。
 大学を卒業後、電子カルテ業界2位の医療情報システム会社で16年間にわたり開発に携わる。仕事は充実していたが、開発プロジェクトの終了を機に「家業を継ぎたい」と父親に伝えた。洋行さんは会長に就くにあたり、尊敬する先輩の経営者から実践すべきアドバイスを受けた。
「社長の言うことは全て肯定すること。会長の仕事は応援団に徹すること。勝つように応援する。相談を持ちかけられた時は話を聞くだけ。答えは社長が自分で見つける。それが間違っていると気付けば自分で修正すればいい。苦難を乗り越えて初めて本物の答えが身に付く」
 家具店をやめると伝えた地元の有力者から「親不孝者」と叱られた。くさびとなって記憶に打ち込まれているという。地域へ貢献する心が大事と諭された。
 国内の玩具市場は新たに大人をターゲットに拡大し、22年度は9529億円と過去最高を更新。冒険王も上昇気流に乗せるが、決して平たんな道ではなかった。〝捨てる〟経営も決行。新規172店に退店76。専門化を進め、高付加価値商品を扱う店づくりに大きくかじを切った。地域1番店の大型商業施設内を中心に、売上高100億円が現実味を帯びてきた中、主力商品を絞りパズル・ゲーム、ミニチュア、プラモデルを〝三本の矢〟とし、欲しい商品がそろうホビーゾーンならではの販売戦略を打ち出す。
 最強のテナントを目論んでおり、大型商業施設から来店客の動員につながるホビーゾーンの出店要請が相次ぐが、油断などない。目標は業界日本一と定めている。

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