広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年2月8日号
わが得意を生かす

うちの得意は力仕事です。総合印刷業で、今年12月に創業105周年を迎える中本本店(中区東白島)の中本俊之社長(62)の答えに、少し驚いたことがある。
 1998年12月に4代目を継いだ間もない頃、同社の得意分野を尋ねたところ、いかに大量の、納期の厳しい注文だろうと必ず仕上げる「力仕事」だとけれん味がなく、品質、納期厳守などの答えを予想していただけに、その言葉が新鮮に響いた。引き受けたからにはきっちりと約束をこなしてきた高い技術力に自負があったのだろう。
 印刷業界の技術革新はすさまじい。活版、オフセット、デジタル印刷へと目覚ましくその都度に相当額の設備投資を求められる。職人から技術者へと世代交代していく人材の確保も並大抵ではない。
 同社は2015年に機密印刷サービスがものづくり革新事業に採択されたほか、「ひろしま食べる通信」創刊、クリエイティブ部門ライツ・ラボを立ち上げるなど持ち前の技術、提案力を動員し、新しい市場開拓に挑んできた。そうした経験を重ね、さまざまな養分を吸収しながら独自の力を蓄えてきた。
 昨年10月中旬、50年ぶりに開いた「全日本印刷文化典広島大会」は、全ての都道府県から580人が集まった。どうやって印刷業界を元気づけるのか、広島大会の主題だった。メイン企画の全工連フォーラム「未来はバックキャストで切り拓け〜事業家魂に火をつけるSFプロトタイピング経営戦略〜」は、
「30年後といってもおそらく我々、人が知りたい、感動したい、伝えたい、これはそう変わらないと思うが、情報コミュニケーション、そしてテクノロジーは大きく様変わりしている」
 と切り出す言葉から始まった。先に未来を描いて「今何をなすべきか」の問いに次々意見が飛び出す。県印刷工業組合の理事長として大会委員長を務めた中本社長は、
「何をなすべきか。時代が移り、技術革新のある限り永遠の課題だが、その発想の実現は事業家魂に懸かっている。紙でも、デジタルでも情報が円滑に伝わることが一番。やみくもにデジタル化を進め、本当は紙媒体の良さを生かせる場面であっても、紙媒体がなくなってしまうのはもったいない。もっと広く紙媒体の良さを再認識してもらう行動を起こし、新たな光を当てたい。刺激し合い、一人一人がとことん考えることが大切。広島大会は将来、大きな成果へつながると確信している」
 利用する側も媒体を使い分ける判断力が試される。研究機関の調査によると、紙媒体は①一覧性が高い、②保存性が高く、繰り返し見ることができる、③記憶に定着しやすい、④伝えたい相手に物として情報を届けることができるほか、視覚的な魅力、手触りといった利点を挙げる。しかしデジタルメディアの即効性にはかなわない。
「印刷することは目的ではなく手段。印刷を注文する顧客の後ろには必ずニーズが隠されている。そのニーズを捉えて紙媒体以外の解決策も提案できるソリューション提供事業を目指す。どのような業界にも通底する商いの原点ではないでしょうか」
 イベント広告を扱う経験を生かしてイベント運営に乗り出した会社、コンビニ向け販促ツールを集約して配送業務まで請け負う会社も現れている。いかに得意を生かすか、反攻の決め手になりそう。

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