広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年2月22日号
真っ先に切り込む

松下幸之助さんの〝ダム式経営〟は常に余力を保ち、困難な時にはダムの水を少しずつ放水するように資金を回せば、経営を健全に継続できると説く。
 講演の後に「どうしたらダム式経営ができるようになるのか」と問われ、一瞬黙り込んだ松下さんは、
「それは、ワテにも分かりまへん。ただ思い続けることでんな」
 会場に笑いが漏れたが、京セラ創業者の稲盛和夫さんはその答えに衝撃を受けたと後に語っている。この逸話を引き合いに、東証グロース上場のデータホライゾン(西区)社長の内海良夫さんは、
「思い続けることがいかに大事なことか、実践した人には心の奧深く刻まれている。寝ても覚めても考え続ける。経営とは祈り、思うことから始まると受け止めた稲盛さんのすごさなのだろう。追い求めているものが射程距離に入った瞬間、間髪入れずキャッチできるか。ちょっとした雑談の中のヒントに気付くことができるか。常に考え続けているからこそ物事はかなう。誰しも一瞬は志を持つ。だが持ち続けることができるかどうか、大きく道を分ける」
 いま日本人に志はあるだろうか。2022年の労働生産性の国際ランキング(日本生産性本部調査)で、日本はOECD加盟38カ国のうち30位。G7で最下位。1位のアイルランドはIT産業を呼び込み、生産性を飛躍的に伸ばした。1980年代にジャパン・アズ・ナンバーワンと評価された日本に油断、奢りはなかったか。
「戦後たったの30年で、GDP順位で世界2位に躍り出たが、その後失われた30年で経済は急速に衰退した。江戸時代の日本は庶民まで読み書きそろばん、論語の精神教育が広く行き渡っていたという。当時、欧州でさえ教育は特権階級のもの。江戸末期に日本の将来を憂えた下級武士の志が明治維新を為した。昭和へと移り敗戦に沈んだ日本が、世界を驚かせる成長を遂げたのも志を持った人を育てる教育が連綿と息づいていたからだと思う。一燈照隅、万燈照国(最澄)。いまこそ志のある人間を育て、一人一人が一隅を照らす力を発揮する気風を起こす。そうしないと日本はさらに沈んでいく」
 世界的にも珍しい、等しく医療を受けることができる国民皆保険制度を守るため、健康寿命の延伸と医療費適正化を避けて通る道はない。この二つの課題を正面に捉え、データホライゾンは真っ先にレセプト分析に切り込み、PDCAで効果的な保健事業を促すデータヘルス関連サービスを全国展開。420自治体ほか健保組合や協会けんぽへ導入する。DeNA(東京)グループとして医療関連ビッグデータの利活用にも挑む。
 どんなささいな事も「因」によって生じ、「縁」によって結果となる。その原理・原則を経営指針に掲げる。
「因は自分の心のなかにある考え方や見方。縁は人との出会いや関わり。成功者は出会いや縁を大切にしている。自分以外の人がみな潜在能力になることを経験している。志を持って思い続けると縁に気付き、縁に味方される」
 少子高齢化の難題を抱える日本だが、悲観している暇などない。例えばバッテリー技術の全固体電池やLSI(大規模集積回路)の分野に切り込んでいく。むろんテーマはほかに幾つもあるが、誰が真っ先に切り込むか、ここが勝負の分かれ目という。

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