広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年5月30日号
50年神のごとし

漢詩に「烈士暮年 壮心不已」(高い志を持つ人は晩年になってもその大志を為し遂げようとする)の一節がある。渋沢栄一は「六十、七十は働き盛り」と言う。
 4月で75歳になった靴販売店を経営する住吉屋(中区胡町)社長の住田悦範さんは、17年前から1日1万歩を目標にウオーキングを続け、すでに地球2周以上歩いたというからすごい。
 2月、JR西広島駅近くに新店「快足屋ウォーキング」をオープンした。
「ウオーキングを生活習慣にし、元気な人を増やしたいと出店を決意。靴を売るだけではなく、さまざまなイベントを催し、健康に関する情報を発信。体感・体験できる店がコンセプトだ。ウオーキングを核にした健康に関するコミュニティー拠点に育てたい」
 ますます盛んである。歩きやすさを重視したコンフォートシューズとオーダーメイドの中敷きを扱う。既存の靴にサイズを合わせるだけではない。それぞれの足の状況を診断・計測し、靴の履き方、歩き方まで指導する。
 それまでに中区と安佐南区で経営する靴販売2店を軌道に乗せており、あるいは新規出店に対して、少しちゅうちょする心が働いたのか、
「実は娘から猛反対されて、むしろ決心が固まった。還暦を迎える頃、歩く魅力を知り、それから人生が好転した経験がある。頑として信念を押し通した。93歳になる人生の先輩が毎週のように店に顔を出してくれる。その元気な姿を見るたび、もうではなくまだ75と痛感させられる。定年後、社会の役割を終えたと勘違いして、あっという間に老けていく人が多い。やりたいことをやり遂げる。心が元気なら何でもできるという自由な気持ちほど大切なものはない。幸せかどうか、全ては自分自身の心の在り方次第だと思う」
 1904年に祖父が洋服のあつらえで創業し、4月で120周年を迎えた。先代の父が紳士既製服の販売を始め、自身が社長に就いた89年以降は紳士服チェーンとして急成長を果たす。しかし競合他社との競争激化、流通形態の変化などのあおりを受け、紳士服事業を次第に縮小。新たなビジネスを探す中で「靴」の面白さを発見し、販売業に乗り出した。2007年に紳士服店の一画に靴を並べて開業したが、やがて事業の柱へと成長を遂げ、21年に紳士服事業から完全撤退した。
「各地の靴販売店を見て回るうち、ピッタリ足にフィットした靴を見つけたときの感動が忘れられない。その靴は自分の足と一体化し、歩くことが楽しくなる。これまで紳士服などで相当数の店を開いては閉じた。いずれにしても商売は上手でないが、靴の選び方を極め、広めていきたいと思うようになった」
 規模を追いかける経営は諦めたが、社会や人に貢献したいという思いはますます強くなっているという。ウオーキングは高齢者がやるものというイメージを払拭すべく、姿勢よく歩き、わずかでもおしゃれな服装を身に着けることを勧めている。
 靴販売に乗り出した直後に始めた毎月のイベント「楽ちんウォーク」は計200回を超えた。飽きっぽいが、なぜかウオーキングと靴は日々新たな発見があると言う。はつらつとされているのだろう。
 10年偉大なり、20年畏るべし、30年歴史なる、50年神のごとし。この言葉を教訓とし、精進を怠らない。

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