広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

コラム― COLUMN ―

2024年6月20日号
カニカマ50周年

インスタントラーメン、レトルトカレーに並び、戦後日本の「食品三大発明」と言われるカニカマ(カニ風味かまぼこ)は幾多の苦節を乗り越えてきた歴史がある。
 世界で主流となった棒状タイプの元祖と言われる大崎水産(西区草津港)の「フィッシュスチック」が3月で発売50周年を迎えた。大崎桂介社長は、
「国内にとどまらず累計40カ国以上に輸出し、世界中の食卓に上っている。高い品質を維持し日本発の水産食品を世界中へ届けていきたい」
 良質な魚が水揚げされる草津で1928年に創業。漁業の傍らで板かまぼこ製造に乗り出し、近隣にも同業者が数多く軒を連ねた。戦後の傷跡が残る50年、二代目の勝一さんは板かまぼこをきっぱりと見切り、別の風味を付けたり別原料と組み合わせたりする珍味かまぼこに軸足を移した。第1弾のマツタケ風味「浜の松茸」はいまも販売が続くロングラン商品になった。 
「もはや証明のしようはないが、浜の松茸は世界初の風味かまぼこだったと思う。いまは普通だが、当時は業界関係者から邪道とののしられたと聞く。新しいものを作れば売れる時代だったが、そうした中でも勝一は新しいことに挑む不屈の魂と進取の気概にあふれていたのだろう」 
 カニカマの誕生は思いがけないものだった。いつものように工場を見回っているとき「かに胡瓜」の製造機の前で足を止めた。かに胡瓜も開発した珍味かまぼこの一つで、本物のカニ肉を詰めたキュウリを、ノズルから出した魚肉で巻いて造る。ノズルから押し出されて残っていた魚肉にカニの汁が混ざり、それを食べるとカニにそっくりの味がした。挑戦の始まりだった。
 当初は手作りで連日深夜まで作業が及んだ。人による不ぞろいも課題だった。だが何としても完成させるという意気込みはすごく、近隣の町工場と組み、自ら製造機械の開発に乗り出す。20台以上を造っては潰し、現在につながる機械を完成させた。以降は量産化と市場拡大が重なり、停滞気味だったかまぼこ業界でまさに異彩を放った。
 水産大手を含め多くの業者が同分野に参入しているが、いまも存在感を放つ「品質の大崎」の誇りが原点にある。大崎社長は、
「高級板かまぼこに使われるなど特に品質が良い、洋上生産すり身にこだわっている。漁獲後港に戻らず魚が新鮮なうちにすり身に加工。嫌な魚臭も発生せず、カニカマに加工してもしなやかな弾力を保つ。市場に出回る安価なものは弾力が弱く味も薄い。これがカニカマの常識になっていることに危機感がある。もちろん当社製品は原価が高く、経営は試行錯誤の連続だが、今後も品質へのこだわりを大切に引き継ぎ、安価な原料に変えるつもりはない」
 棒状カニカマの発明・普及、日本発の「世界食」の海外開拓、シート状カニカマの独自技術開発で、2013年に日本食糧新聞社の「食品産業功労賞」を受けた。業界への多大な貢献が評価された。
「いまは輸出の割合が高く、国内の流通は多くない。広島で作るカニカマを地元の人に食べてもらえるよう、改めて販路開拓を進めている」
 勝一さんは1985年に財団法人を設立し、食文化向上を目指す研究開発に助成。いまも県食品工業協会や県食品工業技術センターへの寄付、研究機器の寄贈を続ける。感謝の思いがあるのだろう。

一覧に戻る | HOME