広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年11月28日号
オリジンの力

若い頃から地域開発の仕事に携わりたいと思っていた。鉄道が地域に果たす役割は大きいと考え、JR西日本を志望したという。同グループの中国SC開発(南区松原町)の竹中靖社長(55)は、広島の玄関口が大きく生まれ変わろうとする時を迎え、その中心的な施設となる広島新駅ビル開発プロジェクトの陣頭指揮を執る。
 失敗は許されない。期待と不安が突き上げてくる。新駅ビルは2階に路面電車が乗り入れるという、世界でも稀な空間構成となる。何が起こるか、分からない。足がすくむような事態もプラスに受け入れる心構えが求められる。
 5月に「ミナモア」と命名された商業施設は〝全館カフェ〟をコンセプトに、来年3月24日開業すると発表された。だが、その後に電車の乗り入れは数カ月遅れることが判明し、来夏にずれ込むことになった。竹中社長は、
「多くの人が行き交い、集うことを勘案すると、乗り入れの遅れは施設運営の助走期間として、むしろ有り難いと前向きに受け止めている」
 2019年に駅ビルの建て替えプロジェクトが本格化。間もなくコロナ禍に遭遇し、工事費や資材の高騰、職人不足などさまざまな難題にぶつかった。店舗のリーシングに際して当初、出店に慎重な向きが多く難航したが、開業準備が進むに連れてテナントはほぼ出そろった。希望を抱く186店舗がミナモアを羅針盤とし、船出に備える。
「各テナントのこだわりと個性を尊重しながら全体の調和をどうまとめていけばよいのか綱渡りのような感覚で、ここまでこぎ着けた。SC開発の仕事は00年に大阪ステーション開発へ出向以来ずっと携わってきた。大阪梅田のエストのリニューアルで販促プロモーションを担当した時は往年の渋谷パルコを知る関係者が大勢いた。人の意識を覚醒させ、ひきつける斬新で尖ったデザイン、びっくりするCM。当時、東京の商業施設に憧れがあった。何がこんなにひきつけてやまないのかとモヤモヤしていた」
 ある日、兵庫県立美術館の展覧会で、ジャンルや国境を越えて世界的に活躍したデザイナー石岡瑛子の言葉に出会った。20年以上くすぶり続けていたモヤモヤが一気に解消された。パルコの源流がそこにあった。オリジン(根源)だと思えた。〝新しい時代〟の象徴として、パルコのブランドイメージを築いた人のメッセージが刺さった。
 ▽問題がない人生、問題がないプロジェクト、問題がない創造というのはあり得ない。問題をどうやって解決しようかと考える。その瞬間に想像もできないエネルギーが湧いてくる。
 ▽不安と期待と自信が錯綜している時間を持たない仕事はダメだと私は思う。
 ▽瞬発力と集中力と持続力を身につけて知性と品性と感性を磨く。磨いて、磨いて、磨き続ける。あるとき、ふっと深い霧が晴れるように、何かが少しだけ見えてくる。
 トップは時に己を鼓舞し、前進させる独自のよりどころが頼みとなる。本質を突いたその言葉にはっとさせられたという。
 新駅開発プロジェクトが何を目指したか、深い霧の中から光が差してきた。人に伝えられる言葉、人を動かす言葉を共有できた時、組織は目的を達成できる有機体になる。広島の未来を握る再開発プロジェクトが相次ぐ中、オリジンの共有が鍵となる。

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