広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2024年12月5日号
選択と集中

大リーグを席巻し、世界をうならせたドジャースの大谷翔平選手。次の世代に夢を与え、勇気づけるため国内の約2万校の小学校に約6万個のグラブを寄贈した。
 グラブを手にすると、なぜか心が浮き立つ。子どもの頃がよみがえるのだろう。スポーツには感動があり、生涯の友とすれば豊かな時を過ごすことができる。
 スポーツ用品を販売する体育社(中区三川町)は、4フロアある本店の約半分を野球用品売り場とし、2022年に全面改装した東広島店はバットの試し打ちコーナーを設けるなど野球専門に大きくかじを切った。特化したことで尾道市など遠方からの来客が増えるなど成果につながっている。大野昌志社長は、
「わが社はどこが強く、どこが弱いのか。大手との激しい競争に打ち勝つ手はないかと考え続けてきた。そうして事業の〝選択と集中〟を進め、業界の荒波を乗り切りたい」
 1947年に創業。店舗と学校向けの外商営業を手掛け、2024年7月期の売上高は10億2700万円。10年ほど前に野球用品の売り場を広げた。グラブ、バット、スパイクなどと品目が多く、品質に対するこだわりも強い。特にグラブは守備位置や好みによってミシンの縫い方、中に入れるスポンジを変えるなど細かい調整が必要になる。そのため販売スタッフには豊富な専門知識が求められる。
 また高価なグラブは学生が複数を所有できないため、試合前日にヒモが切れたと持ち込まれたら、閉店の間際でも丁寧に対応する。バドミントンは国体出場経験のあるスタッフが助言し、それを目当てに来店する人も多い。特定分野での高い専門性と地域密着で、差別化を徹底している。
 店頭でのサッカーやバスケットボール用品の取り扱いはやめ、野球やバドミントンといった特定スポーツに絞り込む。11月は本店1階をウオーキングとランニング用シューズの売り場に刷新。経営資源を集中させる。
「県内で営む3店舗を合わせても、ショッピングモールなどに大型店舗を構える大手には品ぞろえでかなわない。店頭のスポーツの種類を少しずつ減らす一方で、自社の特徴を出せる野球やバドミントンなどは品数や対応の幅を広げた。野球用グラブの品ぞろえは県内トップクラスになった。もちろん品数を減らすのは怖いが、大手にできないことをやるほかに中小に生きる道はない」
 メーカーからの仕入れ商品を代理販売するビジネスモデルにも危機感がある。差別化しにくく、ネット通販との競争にもさらされるためだ。
 昨年、自社の野球用品ブランド「TB(トライベースボール)」を立ち上げた。第1弾の木製バットはメーカー品と同等の品質を維持しつつ割安価格に設定した。来年はグラブも計画する。
 8月には初のM&Aで、ひじ・ひざのサポーターなどを企画・開発するアクト(安佐北区落合)を子会社化した。理学療法士の代表が大手スポーツ用品メーカーやドラッグストア、整形外科など、そうそうたる企業の商品開発を裏方で支える。野球用品も手掛け、プロ選手が使うような製品もある。
「M&Aに反対意見も出たが熟考の末、決断した。いまは自社ブランドを拡充していくタイミング。アクトのノウハウを生かしたオリジナル商品を開発したい」
 新たな挑戦が始まった。

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