いよいよ庄原市特産「比婆牛」の出番である。広島はおいしさの宝庫というブランドイメージの醸成を命題に掲げる県プロジェクト「おいしい!広島」の一環で、3月12日に中区小網町のイタリア料理スペランツァで比婆牛を食材に磨き上げた一品を試食するイベントがあった。 肥育に従事する藤岡幸博さんが比婆牛の生い立ちや特質などを紹介した後、スペランツァの石本友記オーナーシェフによる一品料理のデモンストレーションを行った。JAひろしま西城肥育センター長も務める藤岡さんは、「子どもの頃から食べ慣れているが料理次第で比婆牛の可能性が広がると実感。ただ素牛(肥育前か繁殖牛として育成する前の子牛)が少ない」 繁殖も肥育の農家も少ないのが実情。JAひろしま畜産課の担当者は、消費を増やす生産体制を県内全域に拡大したいと話す。 中国地方は、古代から伝わるたたら製鉄に必要な砂鉄や炭、木材を運搬する力強い牛の品種改良が行われてきたが、農作業の機械化に伴い食用としての品種改良に移行。 約180年前から受け継がれる伝統的な和牛の比婆牛は1843年に誕生し、日本最古の四大蔓牛のうちの岩倉蔓をルーツに持つ。畜産家の岩倉六右衛門が地元(旧比和村)の優良な雌牛を基につくり上げた。脂の融点が低く、くちどけの良さが特徴で、前菜にもメイン料理にもいける。 G7広島サミットでも各国首脳の舌をうならせるなど、次第に名をはせるが、生産量は年200頭未満。そのおいしさに出会えるのは、地元と一部の小売店や飲食店にとどまり、生産と流通に課題を抱えている。 こうした流通の価値向上とコストの最適化をテーマに、県は2024年度に三つのプロジェクトをスタート。その一つ「比婆牛ブランド共創プロジェクト」はバラ肉など通常、高級飲食店では扱わない部位の加工品を開発し、利活用を促す狙いだ。 庄原で地元食材を使ったレストランを運営する水橋聴オーナーシェフがスジなどいろんな部位を使う土産商品の開発に挑戦し、レトルトカレー「伝説の比婆牛カレー」を商品化。地域プロデュース事業を展開するドッツ(中区)が商業施設ミナモアに開業した店で3月19日に披露した。一袋180グラムのうち50グラムが比婆牛という。「冷凍タイプは以前から扱っていたがレトルトの方が土産には適している。肉の食感を残しながら、店で出すカレーの味わいになるよう努めた」 ヒレなど高級部位を使う贈答品は、東白島町でフレンチ店を営む今井良オーナーシェフが開発したローストビーフが採択された。 県は21年度から付加価値要素の多い比婆牛に着目し、ブランディング事業に取り組んできた。農林水産局畜産課の宇田久康参事は、「担い手の高齢化、生産コストの高騰が進む。いろんな部位が適正価格で流通することが一つの突破口になる」 比婆牛だけでなく県産和牛の広島牛や元就、神石牛も同様。全てを味わい尽くしてこそ、ブランド牛も生産者も報われる。 生産者が精魂込めて育てた食材を、一流の料理人の手でさらに磨き上げ、おいしい!を広めるプロジェクト。このプロジェクトに呼応して生産者、流通、飲食、消費者が「広島の良さ」を誇り、丸ごと地域の元気へつなげたい。