広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2025年7月24日号
裏道に花あり(上)

相場に「人の行く裏に道あり花の山」という有名な格言がある。人の生き方、経営者の孤独を語り、思い当たる人も多いのではないか。
 友なき方へ行くべし。相場師は孤独を愛す。それぞれ相場格言だが、さぁ、どうするか。次から次へと経営課題を突きつけられる。広島企業の社長取材を通じて表と裏、知と情、期待と不安が交錯する中、瞬時に決断を迫られる苦悩はいかほどか、つい思いをはせることがある。先のことは誰にも分からない。みんなから支持される決断などないが後にあの時、潮目が変わり拡大発展へチャンスをつかんだと言われる決断こそ、経営者冥利だろう。
 全国金融界で異例の22期連続増収を達成した。広島市信用組合(中区)は、前3月期決算で売上高に当たる経常収益202億円を計上。過去最高を更新した。何か特別の秘訣があるのか。いまも午前3時半に起床し、朝5時には一番でオフィスの机につく山本明弘理事長(79)は、
「秘訣などない。あくまでも本業の預金、貸金に徹し、一切ぶれることがない」
 と言い切る。2005年6月に理事長に就任するやいなや、過去15年に及ぶ所有株式の損益状況を総ざらいしたところ、バブル崩壊のあおりもあって、さんたんたる結果だった。即座に今後は投資などに目もくれないと決断。大半の株を売り払ったという。
 この時から本業一筋。渉外担当の頃に鍛え抜いたフットワークがすごい。理事長自ら年間で1000軒以上の取引先を訪問。日々の決裁など激務にさらされる金融機関トップにして並大抵でない。あのでかい声で取引先を訪れる。
顔を合わさなければ分からない貴重な情報も瞬時にキャッチ。オフィスや工場に活気があるか、どうか。経営者と本音で語り合う。いつしか山本理事長の訪問を心待ちにする経営者も多いという。
 大手行などがなかなか真似のできない〝足で稼ぐ〟営業に徹する。金融機関がこぞって合理化を進める中、
「自転車、バイク、足を使った営業は非効率に映るが、これが足腰の強さになり、結果的に高い効率をはじき出す」
 と胸を張る。渉外担当者もぶれることがない。
 どの業界にも通底する信念がある。競合他社が何をしようとわが道を行く。実績が自信になり、勇気を生むのだろう。むろん暗闇に鉄砲を撃つことはない。取材中にもあれこれと経営指標が飛び出す。「全て綿密に分析し、その上でぶつかってみる。そうすれば余計な心配など吹き飛ぶ」
 経験に裏打ちされた勘とデジタルがかみ合うのだろう。
 銀行員による貸金庫からの窃盗事件が発覚し、金融機関の中には貸金庫サービスを縮小する動きが出てきた。同信用組合はここぞと攻勢をかける。店舗建て替えなどに合わせて今後3年間で全自動貸金庫を500個以上増やす計画だ。台風や地震、窃盗などの被害から財産を守ってくれるセキュリティー対策を備えた貸金庫利用のニーズは高いと判断。9月16日に新築移転する南支店、その後に計画している鷹の橋支店以降の新築店舗にも全自動貸金庫をそれぞれ設置していく。既存の貸金庫1157個(16年の可部支店移転開店以降)全てが契約済みという。
 相手の立場に立つ。案外とビジネスのヒントは身近にあるが、計画を遂行するトップの胆力も試される。職員へ寄せる思いなど、次号へ。

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