広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

コラム― COLUMN ―

2025年8月7日号
勇気をもらう(下)

40、50代になっても何にも分かっとらん。筆者が40代半ばの頃、ある経営者の言葉を聞いて驚いた。そんなことはないだろうと思ったが、いまになって何にも分かっていなかったことさえ、分かっていなかったことに気付く。それだけに40、50代は瞬発力、行動力が生まれるのだろう。そうして経験を重ね、少しずつ思い当たることが増える。
 融資の仕事なんて簡単だと勘違いしていた。広島市信用組合(中区)の山本明弘理事長が入組して間もない頃、資金を求めて来店される人がみな、深々と頭を下げる。それを見て、人の役に立つことができる融資の仕事に魅力を感じ、願って配置転換してもらった。ところが毎日、何軒訪ねても門前払い。
「当社のメイン銀行はどこどこだから、早よう帰りんさいと追い返される。これが骨身に応えた。お金は貸すのではなく、借りていただく」
 と気付く。ある中小企業経営者の考えに共感し、融資担当の上司に向かってけんかせんばかりにねじ込み、融資にこぎ着けた。その後、その会社がどんどん成長し、心底うれしかった。借りていただいて喜んでもらう。むろん失敗もあっただろうが、会社も社員もみんな元気になり、そうして多くの会社が発展していく姿を目の当たりにした。何よりのやりがいだった。
 「融資はロマン」という言葉に感謝の思いも込める。そうした一つ一つの融資、営業体験に知と情が通う。わが信用組合には誰一人、融資の仕事を疎かにする者はいないと言い切る。
 職員の待遇改善にも意を尽くす。来店客にはむろんのこと、職員も気持ち良く働けるようにと古くなった支店は次々建て替えた。全35店舗のうち、2014年6月に移転開店した東雲支店に次いで可部、宮内、広、駅前、己斐、海田、五日市、府中、薬研堀と順々に竣工。さらに今年9月には南支店、12月に鷹の橋支店、来年10月に戸坂支店、再来年6月に古江支店と移転開店を計画するほか、向洋、大河、江波、出島、安支店も移転や建て替えを予定。職員のうれしげな顔に勇気をもらうという。
 多くの金融機関が効率化で店舗や施設を縮小する中、働く環境整備に積極投資する。給与の引き上げはむろん、諸手当を基本給へ振替えるなど継続的に待遇改善を図る。
 24年間に貸出金残高は約2213億円から約8048億円と3.6倍強に。預金残高は約2794億円から約8839億円と3.1倍強に。従って預貸率は79%から90%へ。いずれも飛躍的に数値を伸ばす。働く意欲と業績の好循環をもたらし、預金と貸金の本業一筋、現場主義といった特有の経営が信組界からも注目されており、各地から講演依頼が舞い込む。
 山口県宇部市出身。宇部高校では野球部で汗を流し、専修大学経済学部へ。1968年に同信用組合に入り、2005年6月に理事長に就く。宇部高校は逸材を多く輩出している。総理大臣の菅直人、ノーベル賞受賞者の本庶佑、ユニクロを経営するファーストリテイリング創業者の柳井正、映画監督の山田洋二ら、そうそうたる顔ぶれだ。広島で同級生との再会があった。6月12日号本欄で紹介したデータホライゾン(西区草津新町)顧問の吉原寛さんは京都大学から大手製薬メーカーを経て同社に転職。時間を縫って旧交を温めるときが何より。かみしもをほどく。

一覧に戻る | HOME