夏から秋に旬を迎える夏イチゴ。寒暖差が大きい高原の気候、水が適していたのだろう。廿日市市吉和の農園「吉和ラフレーズ」が手塩にかけた「冠苺(かんむりいちご)」が見事、日本一に輝いた。
7月30日にあった日本野菜ソムリエ協会の第1回「全国夏いちご選手権」に各地の産地が自慢の28点をエントリー、おいしさを競った。西日本から唯一出品した冠苺は濃厚な甘さと酸味のバランスの良さ、弾力のある果肉などが高く評価された。
吉和ラフレーズを営む栗田直樹さん(43)は安佐北区で農機具を買い取り販売するアグリードを経営する傍ら、父親のふるさと吉和への思いもあり、4年前に夏イチゴ栽培に乗り出したばかり。経験はなく、専門家の助言を得て試行錯誤。ようやく得心できる収穫にたどりついた矢先、全国選手権での快挙。まだ県外出荷できるほどの収穫量に及ばないが日本一の機を捉え、広く冠苺を知ってもらうPR活動を展開している。
夏イチゴも含め、年間を通じてイチゴを楽しんでもらえるよう栗田さんのほか、田原農園の今田徳之さん、ワイ・ワイファームの水田耕太さんの3人が手を組み、3年前にプロジェクト「苺キングダム」を立ち上げた。今年はマツダスタジアムであった8月22日の中日戦と28日の巨人戦のイベントコーナーに出展。冷凍イチゴやアイス、スカッシュなどが飛ぶような売れ行きだったという。
栗田さんは、かねて吉和で農業をやりたいと構想を描いていた。何を栽培しようかと探るうち、冠山の水源とその麓にある標高750メートルの冠高原の気候が夏イチゴ栽培に適していることに気付く。もう迷いはなかった。夏イチゴに夢中になり、懸命に育てた。いまはキッチンカーでイベント出店を重ねながらスイーツ開発にも乗り出している。今秋には念願のカフェ計画も動き出す。
廿日市産のイチゴは、戦後まもない1949年から盛んに栽培された。県内でも産地として古く、ジャムを作るためにメーカーから依頼を受けたのがきっかけと伝わる。平良地区で始まった栽培はピークに農家100軒を数えた時期もあったが、その後に衰退。吉和・佐伯地区を中心に12の生産者が観光農園を開きながら、ほかの作物も手掛けるなどそれぞれのやり方で、廿日市産イチゴをつくる。
農業従事者の高齢化が進み担い手も不足。耕作放棄地は増える一方。イチゴ農家は特に温度管理などに気が抜けないハウス栽培の初期投資が嵩み、経営的にも厳しい。こうした事情から新規参入を阻むが、夏イチゴは産地が限定的で国内の収穫量が少なく、付加価値に見合う値が付く。生産者にとって魅力は大きい。
地産地消を推進する廿日市市は、新規就農6を含め35の認定農業者の経営をサポート。イチゴ農家は4事業者にとどまる。2年前には生産者と食材を紹介するカタログを飲食店や旅館などに配布。顔の見える生産者の食材を扱う宣言店は現在20軒に増えた。
平良のイチゴを復活させようと商工会議所やJA佐伯中央(現JAひろしま)がブランディングチャレンジ研究会を中心に、「はつかいちご」の振興に取り組み、地元の洋菓子、和菓子の店と生産者とのつながりが醸成された。地域の風土と人、行政、農業生産者と消費者がつながり、新たな産業おこしの可能性を広げている。