広島経済レポート|広島の経営者・企業向けビジネス週刊誌|発行:広島経済研究所

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コラム― COLUMN ―

2025年9月18日号
伝統技術で世界へ

筆ハ道具ナリ。ひと言で筆というが、いろいろある。白鳳堂の高本和男会長(当時は社長)は2005年、ものづくり日本大賞の伝統技術の応用部門で「内閣総理大臣賞」を受けた。伝統的な毛筆製造技術を応用した新製品〝化粧筆〟を開発・提案し、国内外へ新市場を開拓したことが高く評価された。
 約200年、筆づくりの歴史を持つ熊野町で1974年に創業。伝統工芸に欠かせない和筆づくりを磨き、用途に応えてきた。昨年で50周年を迎えた白鳳堂は「道具として機能する筆づくり」を理念とし、いまや化粧筆が95%を占め、ほか和筆、画筆、工業用筆を作る。国内外の化粧品メーカーとOEM契約。化粧筆メーカーとして世界で初めて自社ブランドも立ち上げ、国内最大手へ発展を遂げた。
 広島本店ほか、京都本社、東京南青山店、米国ロスアンゼルス支店を展開し、国内百貨店に常設9店舗を擁する。従業員数は230人。ピーク時に約27億円を売り上げたが、その後コロナ禍を挟んで一進一退。ようやく回復し好調が続く。
 欧米に限らず、さまざまな国から多くの観光客が押し寄せる京都はインバウンド需要に沸く。白鳳堂の京都本店は日本茶専門の一保堂茶舗本店など京都の伝統や文化を担う老舗が軒を連ねる寺町通沿いに2014年、出店。経営戦略にとって大きく、国内外へ日本産の化粧筆を広める礎になった。高本光常務は、
「京都本店はインバウンドで訪れる人が多く、目的を持って来店される方が大半。遠く外国からわざわざ来店していただいたことが、何よりうれしい。どんなに店が混みあっても丁寧に接客し、その人にふさわしい化粧筆の提案を心掛けている。1本1本の価値と機能を対面できちんと伝える。見て触れて、納得して買い求めていただくことが将来へ、世界へつながる大切な絆になると確信している」
 輪島塗や九谷焼、薩摩切子などを軸に使った化粧筆は1本10万円を下らない。各工房に軸のデザインを依頼し、道具とはいえ、美術工芸品のたたずまいを醸し出す。日本の伝統工芸ならではの技、美しさが海外から訪れた人の心を動かすのだろう。
 白鳳堂はもともと面相筆を得意とし、業歴をつないできた。漆塗り、陶器や着物の絵付けなど用途は広く、国宝の修繕にも使われる。伝統工芸を支える誇りと、これまで長く工芸職人や作家らの期待に応えてきたものづくり精神が息づく。筆を納める輪島塗の工房には、災害見舞いにと筆を寄贈し、仕事を発注。感謝の心を届けた。
 2004年に、道具の文化を考える雑誌「ふでばこ」を創刊。各地の〝よき道具〟を訪れて丹念に取材し、ライフスタイルを提案。著名人の寄稿もあり、日本の伝統に楽しく触れる誌面は、文化人や知識人からも定評を得たが、41号でいったん休止。
「京都本店がスムーズに出店できたのも実はふでばこが介在。雑誌を通じて、しかるべき方々との出会いにつながった。京都に店を構えることはさまざまな情報が入る価値も大きい。各分野をけん引するような方々とのつながりも自然とできる。品質を大切にする筆づくりの姿勢を伝えたふでばこが、信頼を生んだ」
 鑑識用の筆を広島県警と共同開発。他県からも依頼が舞い込む。ものの価値を大事にする人が支えてくれるという自負もあるのだろう。

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