駅弁。旅情とも重なり、それぞれの人にそれぞれの思い出があるのではなかろうか。一方で、その市場は急速に縮小し、廃業、撤退する駅弁業者が後を絶たないという。
1901年創業の老舗、広島駅弁当(東区矢賀)の中島和雄社長は、
「駅弁には、特産品や郷土料理などの食文化がいっぱい詰まっている。簡単に途絶えさせてはならない」
と思いを込める。かつては鉄道の発達とともに駅弁業者が増え、全国組合の加盟業者は最盛期には400社に上った。しかし鉄道の高速化や中・外食産業の隆盛などにより、現在は4分の1以下の約90社にまで減少。創業100年を超える老舗も少なくないが、売れ行きが鈍り、経営者の高齢化などから次々と廃業に追い込まれた。
このまま手をこまねいているわけにはいかない。地域に根差す駅弁の伝統を守ろうと、事業者のレシピやのれんの継承に乗り出した。同社は2015年に初めて小郡駅弁当(山口県)のレシピを継承し、現在は本社工場で製造した弁当を小郡駅で販売する。18年には福岡市の老舗「博多寿軒」ののれんを継ぎ、新会社「博多寿改良軒」を設立。盛り付けなどは刷新したが、パッケージは長年親しまれた当時のデザインを生かした。
同社は学校、病院向け給食や、配食サービスに事業を広げ、グループ化を促進。「食を通じた社会課題の解決と地域社会への貢献」を旗印に、ビジネスを展開する。近年は広島大学病院などと共同で高齢者の栄養状態に応じたメニューの開発など、ヘルスケア事業に参入。健康に市民が生活することで社会保障費の削減にも寄与できるという。祖業の駅弁当事業は約15億円にとどまるが、企業や病院などへ配食するフードサービス事業などがけん引し、18年の売上高はグループで約96億円と堅調だ。
「新事業で社会に貢献することはもちろん、事業を広げ、経営体制を強化することが、次世代に駅弁の伝統を残すことにつながる」
全国初という取り組みにも挑む。グループの広島アグリフードサービス(佐伯区)は、設備投資から運営まで全て民設民営の学校給食センターを手掛ける。現在は佐伯区五日市地区の18の小中学校に約9000食を提供し、食材の4割を地域産で調達。19年春には広島駅弁当から移管した配食事業を本格化し、公営施設では認められなかった給食事業外の時間を有効活用する計画だ。
子どもたちの食の安全を守り、毎日安定した給食を提供するには徹底した衛生管理と効率的な作業の両立が欠かせない。最新鋭の設備に加え、長年培った駅弁製造のノウハウを生かした。例えば、色分けした床を見れば熱処理が行われるかが一目で分かる。フロアの中央に大釜を設置することで2人の作業員が効率的に混ぜ込むことができ、食材をより味わい深く仕上げる。保護者を交えた新メニューの試食会も開き、独自献立の開発にも余念がない。
「おかずはもちろんですが、ほくほくに炊いた白米を味わってほしい。弁当も給食も、ご飯がおいしくなくちゃ、はじまらない」(事業統括者)
老舗の駅弁当企業の誇りが垣間見える。